デザイナーが考える、ファッションの未来との向き合い方「ファッションは悪者ではない」

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メンズデザイナーとして2019年、クリエイターたちと一緒に自分たちのブランド TWEO を立ち上げた友人から、先日嬉しい相談を受けた。

友人の名前は、譚芸斯(タン ウンシ)。出身は台湾で、東京の文化服装学院でファッションデザインを学んだ。私が以前、北米・南米マーケットの卸営業・マーケティングを担当していたデザイナーブランドにて、彼女はデザインをしていた。年に数回、ニューヨークやパリで顔を合わせる内に親交を深めた。お互いその会社は辞めてしまったし、東京 – ニューヨークと離れているけれど、今も仲がいい。英語と日本語ごっちゃまぜで、話は尽きない。

インスタグラムを通してあなたが送っているメッセージにどんどん刺激を受けて、自分の服づくりの考え方がシフトしてきた」

「新しい服をデザインするだけでなく、(ビンテージなど)今存在しているものにアートを施すプロジェクトを始めた」

「あなたの言葉を、新しいプロジェクト “the new norm” のプロダクトに印刷したい – 日英2カ国語でメッセージを書いてくれないか」

なんと!ヴィンテージの服が、時間を経て、また新しい服として誰かの手に渡る中で、私の言葉も一緒にそれに乗って時空を超えるっ!
(大げさだけどそれくらい嬉しかった)

あまりあれこれ考え過ぎずに、常に思っていたことをたよりに直感で書いた文章が以下のもの。

“The most sustainable fashion is what already exists on the planet.” If you are wondering how to approach and enjoy lower impact fashion, this is the best bet. According to the Ellen MacArthur Foundation in the UK, the pioneer of circular economy, it is said that the production of garments has doubled since 2000, yet 60% of clothing will end up in landfills within a year. Isn’t it pitiful, knowing that each piece has gone through numerous processes and exchanged many hands, only to live such a short life? Why don’t we cherish the beauty of fashion in a way where we show love and respect both to the people involved, as well as Mother Earth? There’s nothing new in the world of fashion at this point, however, remaking and upcycling already existing garments can give new life and personality to your wardrobe. THAT is the new, normal way of enjoying fashion.



「最もサステナブルなファッションは、すでにこの世に存在しているものを楽しむこと」もし環境負荷が少なく地球に優しいファッションを始めたいなら、おそらくこれを覚えておくといいでしょう。サーキュラーエコノミー第一人者である、英国のエレン・マッカーサー財団によると、2000年に比べ現在のファッション製造は2倍に膨れ上がっている一方で、60%の衣料はたった1年の間で捨てられてるそうです。一つの服を作るのには多くの手を使う工程を繰り返すのにも関わらず・・・。地球と人をもっとリスペクトし、ファッションの真に美しい姿を大切にしませんか?ファッションの世界に、もはや目新しいスタイルは存在しません。しかし、すでにあるものをリメイクしたりアップサイクルすることで、洋服に新しい命や個性を足すことができます。それこそが、私たちにできるファッションを楽しむニューノーマルな形ではないでしょうか。

このメッセージは、8月4日から16日まで、渋谷パルコで開催される「SUSTAINABILITY/HUMANITY<地球環境と人権>」をテーマにしたポップアップストア BREATH BY DELTA で販売されるビンテージリメイクのアイテムにプリントされる。

ポップアップについて詳しくはこちら
ソーシャルグッドな商品だけで構成するコンセプトストア「BREATH BY DELTA」(渋谷パルコ)
【ポップアップストア8/4~16開催】世界のクリエイティビティとサステナビリティが出会う場所 (IDEAS FOR GOOD)

ファッションは外から身を守るものであると同時に、作る人・着る人、どちらにとっても自己表現やアートの役割を持つ。私はファッションが好きだし、ファッションマーケティングをパーソンズ美術大学で専攻し、ニューヨークのファッション市場で働いてきた経験がある。真に美しく楽しいファッションをサポートしたい。その中で、環境破壊や人権侵害の問題など、ファッション業界の闇の部分が多く取り上げられる今、デザイナーである譚さんが考える、ファッションの未来との向き合い方を知るべく、インタビューすることにした。

これは、新しい創造を世に送り出す作り手側の目線から見るファッションの話である。

世界的デザイナーブランドでの
経験とその影響

ファッション業界の問題を議論する際、ファストファッションが槍玉に挙げられやすいが、いわゆるラグジュアリー/デザイナーと呼ばれるジャンルにもサステナビリティの課題は多く存在する。とはいえ、ものづくりの観点から見ると、多くのラグジュアリーブランドは「素材を生かして長持ちさせる」「長く愛してもらう」という点は重視している、と譚さんは話す。

例えば、彼女がかつてウィメンズのデザインを任されていた世界的デザイナーブランドは、テキスタイルに重きを置いており、自社で生地から製作していた。ジャガードなどの織りはどの箇所を見ても美しい、生地の具体的なコストを把握している、そして、生地の作り手を知っている。

「自然と、無駄を出さずに一つ一つの生地の魅力を最大限生かすことに専念するようになった。」

彼女が作るデザインがパタンナーの手に渡り、型紙に生地をマッチングしていく作業の中で、デザインに修正を加えながら余剰生地を出さないように仕上げていくのは、デザイナーの腕の見せ所でもある。

彼女は担当ブランドのプロジェクトに関わったことからインドの生地や服の作り方にも精通しており、そこから学んだことも。インドの服作りでは直線で生地をカットすることが多く、ゆえに無駄が出にくい。さらには、染色・刺繍・プリントなど多くの工程が丁寧な手作業で、人の手を感じられる。TWEO はインドの伝統をそのままスタイルとして引き継いだブランドではないが、その奥にあるものづくりのスピリットは、確実に今、彼女の小さなブランドで生きていると言う。

逆に難しさを感じていたのは、会社のスタジオに籠もって服を作っていたので、顧客の本当の声や反応を聞く機会は限られていたこと。自分の作ったものが、国内・海外ともに複数の事業部や会社を通して最終的な顧客のところに渡るので、フィードバックも同じようにいくつものフィルターがかかってしまう。本当に求められているものが何か、100%の確信を持つことはなかなかできなかったそうだ。

ファッション業界が取り組んでいる
サステナビリティ

サステナブルファッションに着手すると出てくるのが「エコ素材」のキーワード。具体的には、特にリサイクル素材は今どこのブランドもこぞって取り入れている。しかし実際にファッション業界が環境のためにするべきことには、ファッションビジネスのシステムの中に組み込まれている要素が多い。例えば余剰生産→在庫破棄・焼却、余剰生地、生産やサプライチェーンにおける環境汚染や人権の問題などがある。選ぶ素材の見直しは重要だが、結局廃棄が出てしまったり、サプライチェーンにおいて課題が残っていては本末転倒である。

「環境問題を語る上でどの業界でもそうなように、根本的な仕組みの見直しをしないことには、大きな改善はのぞみにくい。」

しかし、少しでも罪悪感の少ない選択肢をとりたいという一般消費者側の風潮と相まって、ここ数年、双方で中途半端なソリューションを拡大させてしまっている部分がある。

特に海外のメディアで、サステナブルファッションの考え方としてスローファッションというコンセプトが大きく支持されているのを彼女は目にすると言う。事実先進国に住み経済的に余裕のある人たちの多くは、充分に服を持っている。そんなに慌てて、たくさんの服を作る/買う必要はない、という気持ちの部分での変化が起きれば、サステナブルにファッションを楽しむ理解は広がり、パラダイムシフトはぐっと速くなるのではないか、と彼女は分析する。

ファッションデザイナーとして
過去を未来につなぐ

実際に譚さんも、自身のクロゼットの中を改めて見た際、服の多さに愕然とした。それでも、新しい服が欲しいと感じていた。そこで、「私は服の作り方を知っている – 今持っているものやすでにこの世に存在しているものに手を加えて、新しい服にしてしまおう」と思い、手持ちの服や古着のリメイクを始めた。

元々、古着が好きだったのもある。デパートやセレクトショップは、行く前から何が置かれているかは大体わかっている。それに対して古着屋やビンテージショップの持つ、行くたびに新しい発見があって飽きない、宝探しの感覚を楽しんでいるそう。さらに、古着は誰かが着込んだ過去や時間があるからこその質感や柔らかさ、他にはない味わいを持つ。それを今は、お金と時間、環境負荷をかけて、新品で再現しようとしていると考えると胸が痛むと、彼女は話す。

古着 + アート

TWEOがリメイクプロジェクトの中で常に意識しているのは、「古着を改造する」というスタイルではなく、「古着にアートを施して、全く新しい、興味深い服を作る」ことだ。今回 BREATH BY DELTA に並ぶのも、古着のTシャツやジャケットに、TWEO の一員であるアーティスト Emiliano Bernardini がハンドペイントで画を描いたり、手作業でブロックプリントを施したもの。

例えば今、ダヴィンチやゴッホなど、誰もが知っているような画家の名画がシルクスクリーンやデジタルでプリントされているものをよく目にする。それも服にアートを施すスタイルの一つだが、画そのものはフラットで、全てが同じになるよう機械が使われることが多い。TWEOでは、一つ一つ手作業で、アーティスト本人がビンテージにアートを足して生まれるパーソナルな服を楽しんでもらうことを目指している。

アートとファッションの世界に
立ちはだかる壁

「アートとファッションについて考えていると感じるのは、どちらも民主主義的ではないということ。」

と、譚さんは少し声を上げて話し始めた。アーティストもファッションデザイナーも、いくら素晴らしい作品を作っていても、しかるべき人と出会うチャンスがないと日の目を見ないことがあるのを見てきた。

先日、岡本太郎の本を読んでいて、アートの世界は未だにヨーロッパの視線が強いことに気づかされたそうだ。ヨーロッパの、ひいては西洋の権威に認められる=一流という考え方は根強い。例えば、ヨーロッパやアメリカの大きな博物館や美術館に行くと、アジアや南米、アフリカなどの古代の美術品が展示されている。しかし実際にそれらは全体のほんの一部であり、研究やキュレーションによって価値があると認められたものとして置かれている。「それ以外にも、作り手のメッセージや生命力を感じさせるものも埋もれていたに違いないのに・・・」と悔しさや虚しさを感じると、彼女は続ける。

BLMの動きが世界中で続いており、今も根深い植民地主義の名残りについても話題になることが増えた。かつて植民地だった国がその国の伝統として作り続けているものが、かつての支配国の視点から、「クラフツマンシップ」として世界の脚光を浴びることがある。元々その被支配国にいた人たちにとっては生活の一部だったものが、支配国の基準に沿って承認されることによってアートとして価値が与えられる構造にも疑問を感じると話す。

強いものから付与される価値が必要である環境は、ファッションの世界でも同様である。一部には偏りがあるため、作品やブランドの見せ方には「選ばれたい」という気持ちが作用してしまう。パリでショウや展示をすることが成功への切符であるという概念が、特に若いデザイナーの自由な表現や届けるメッセージに、限りを与えているかもしれないことを彼女は懸念している。それはサステナビリティや社会的メッセージの伝達に挑戦したいブランドにも、よくも悪くも作用する可能性がある。

ファッション業界を民主主義化したい

業界内に存在するいわば政治的な難しさと、ファッションビジネスがもたらす環境汚染や人権問題から、ファッションが問題視されてしまっている。

「悪いのはファッションそのものではなく、システムや構造 -ファッションは、常に人に喜びや表現の自由を与えるものであって欲しい。」

と譚さんは切に願っている。

構造の問題の解決には大きな決断と時間を要するが、一方でファッション業界の民主主義化がもっと進めば、小さなブランドが起こせる大きな変化に期待ができる。TWEOをはじめ、BREATH BY DELTA に参加しているブランドの多くは、名門のファッションスクールや有名ブランドを経て独立し、自身のコレクション作りに挑戦している。大きな世界も、小さな世界も、どちらも見てきている。

最近は若い世代のファッションインフルエンサーも、「スローファッション」や #payup(バングラデシュを中心に、パンデミックの影響で注文をキャンセルしたことにより未払いになった賃金の支払いを、大手ファッションブランドに求めるムーブメント) や、新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産・供給されている綿の問題など、ソーシャルメディアを通してファッションのあるべき姿と構造的問題を訴えかけている。業界内の民主主義化はこういった形で、若い力や小さいところから進んでいくのではないか?と、彼女も勇気をもらっている。

気付き、受け止め、学び、
助け合い、闘うこと

サステナビリティが多く語られるようになってきたさなか、感染症が世界で広がり、反人種主義運動も起き、多くの人が自分を責めることに少なからず時間を費やした、と譚さんはここ数ヶ月を振り返る。

最後に彼女は、ファッションデザイナーとして、そして混乱している今を生きる一人の人間として、こう締め括った。

「みなが過ちを犯してきたし、今も誤りがあるかもしれない。大切なのはそれに気づき、現実を受け止め、そこから学ぶこと。そして周りと協力し合い、自分と周りのために闘い続けること。そう簡単には変わらないかもしれなくても、まずはスタート地点に立ち、一緒に少しずつでもできることを始め、継続していくべきなのではないか。」

編集後記

ファッションの歴史の中には、社会との接点から生み出された変化が多く存在する。気候危機や人権問題という大きな課題を抱え、ファッションのあり方が問われている今。クリエイティビティを世に送り出す存在であるデザイナーの言う、「悪いのはファッションそのものではない」という言葉の裏には、ファッションを悪者にしないよう、作り手として環境問題や社会問題と取り組む意志がある。

ファッションの世界の民主主義化も、その動きの一つと言える。パンデミック後の世界を話す言葉として「ニューノーマル」がよく使われるが、彼女たちが自身のプロジェクト “the new norm” を通して伝えるメッセージは、払う代償が大きいファッション業界の中での「ニューノーマル」を伝えてくれる。

衣食住の一つとして生活に不可欠ながら、アートでもあるファッションを通して、多くの小さな力が歩み寄り、新しい風を吹かせているのを感じた。

COVID-19 の感染拡大が懸念されている状態ではあるけれど、もしご興味があったら BREATH BY DELTA の取り組みにも注目してみてください。多くのブランドが、様々な視点からサステナビリティや社会的メッセージの伝達にクリエイティビティを使って挑んでいます。

BREATH BY DELTAイベント詳細
場所:渋谷パルコ 1階(東京都渋谷区宇田川町15-1)
日程:2020年8月4日~8月16日
時間:11:00~21:00(※館の営業時間に準拠)

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