COOKIEHEADがファスト ファッションをやめた理由 その2: デザイン

「これかわいい!」と手にとったファスト ファッションのアイテム、そのデザインは誰のもの?

シリーズ 「COOKIEHEADがファスト ファッションをやめた理由」

<注釈>
この連載は2017年に書かれたものであり、情報は古くなっている部分があります。また、ファストファッションに焦点を当てていますが、ファッションビジネス全体を多角的・多面的に見た際、他にも多くの問題があること、そしてそれがファストファッションをかえって助長してしまっていることも理解しています。

COOKIEHEADがファスト ファッションをやめた理由 その2のテーマはデザイン。ファスト ファッションは流行のデザインを簡略化し、手頃な価格で提供するが、そのデザインはどこからきてる?

スピード > 独創性

事実、ファスト ファッションが主に行っていることは、誰かがデザインしたものの模倣だ。特にVogue Runway やNOWFASHION をはじめとしたサイトでファッション ショウの詳細が即時に広められる今は、ファスト ファッションは各デザインの細かい部分まで見ることができ、模倣し、すぐに生産に回せる。

通常、デザイナー ブランドは1年近くかけてコレクションを企画して、ショウで発表し、マーケットでの受注に応じて生産して、コレクション発表から半年後に商品は世に出る。一方で、Parsonsの教授によると、大手ファスト ファッションの各社は、デザイン→パターン作成→生産→出荷→発売までを、週数間で完了する画期的なビジネス モデルを有する。ファスト ファッションは他のデザイナーが年月かけたデザインを、インターネットから画におこして、1ヵ月足らずでお金に換えることができるのだ。

彼らのバージョンは、当然ファッション ショウで見るのと同じものではない。まずデザインの細かい部分は簡略化される。それは実際の消費者が着やすいデザインに変えるということもあるが、生産のスピード アップのためにも、シンプルになる。更には、当然品質も下がる。安価な生地が使われる。縫製は最も安く速い手法が選ばれる。ボタンやジッパーなども低品質のものが採用される。刺繍やビーズなどの細かい装飾もプログラミングされた機械で施される。

流行という後ろ盾

スピードのあるファスト ファッションが支持される大きな理由となるのは、流行だろう。

ファッションは流行に大きく左右され、次から次へと移り変わる。生まれては消えていく「今だけ」のスタイルに、多くのお金は掛けられないし、品質も求めない – ファスト ファッションはそういった時代の風潮に大きく助けられている。

ファッションの歴史において、ファスト ファッションが生まれるずっと前から、流行のデザインの流布はあった。多くの消費者が同じようなものを欲しがり、それに伴い多くの生産者が似たものを作った。現代においても、その流れはある。例えば2010年にCélineのLuggage が発表され、爆発的にヒットした時、多くのデザイナーが四角いバッグを発表したように。模倣しているのはファストファッションだけではない。

luggage
Courtesy of Céline

では、その「流行を追う行為」と「模倣」の境界はどこにあるのか?曖昧な部分を明確にする段階で登場すべきは法律だ。

ファッション デザインの法的保護についての気付き

そもそもファッション デザインは、アメリカで法の下どのように守られているのか。私はこのトピックにかねてからとても興味がある。きっかけになったのがこのTED Talkだ。

このスピーチは2010年のもので、私がこれを初めて観たのは2013年。事実的内容に関してはアップデートが必要だが、ファッション市場におけるデザインの保護に関する様々なエリアに触れる非常に興味深いトークなので是非観てもらいたい。とにもかくにもまず、このスピーチのキーとなるのは以下の事実だ。(日本語のトランスクリプトはこちら

ファッション業界では 知的財産保護はほとんど存在しません。商標保護はありますが 著作権保護はなく特許保護と言えるようなものもありません。実際にあるのは商標保護だけなのです

これを知り、私の中の理想主義な部分が、「そんなのダメ!ファッション デザイナーがかわいそう!」と直感的に感じた。しかし、ジョアナも述べる通り、ファッションに知的財産保護は必要ないと裁判所に判断されるのには理由がある。

服飾は著作権保護を認めるには実用的すぎると判決したからです。 私たちの服の重要な構成部分が少数のデザイナーに所有されるのは避けたかったのです。

その1: サステナビリティでも触れた、「衣食住」という考えはここでも登場する。服は誰しもが毎日着る、必要不可欠で「実用的」なものである故に、自由市場を維持すべく、著作権や特許に相当しないということだ。

え、これって実用的?

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メトリポリタン美術館 “Rei Kawakubo / Comme des Garcons Art of the In-Between” にて

これも?

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メトリポリタン美術館 “China: Through the Looking Glass” にて

そう思わずにいられなかった。こんなに独創的で、だからこそ保護されるべきデザインは、実用的ではないから法は関与しないということ?そこから、私は多くの文献を読んだり展示に足を運んで、ファッション デザインと法の関係について、考えてきた。

ファッション デザインにまつわる法律

ファッション デザインの法的保護はすごく複雑だけれど、アメリカでのファッション デザインにまつわる法的ルールについて、ポイントごとにまとめてみる。

著作権 (Copyright)

著作権は創作性が認められると発生するが、衣料は実用的なものという原則の下、ファッション デザインにおいて著作権は存在しない。繰り返しになるが、物質的な機能性を持つものに、著作権は適用されないのだ。テキスタイル デザインは著作権登録ができる。

特許 (Patent)

新規性や革新性があるものに対して、特許は申請できる。しかしファッションのカテゴリーでそれを証明するのは難しい。例えば革新的にタイムが上がる水着などは対象になる。

アメリカには、特許のカテゴリーに Design Patent がある。日本でいう意匠の考え方に近い。これであれば、実用的・機能的なものの一部に含まれる服飾的な要素について、申請することができる。例えばSaint Laurent は、ハンドバッグの部分的な装飾について、いくつもDesign Patent を取得している。Design Patent は今、アメリカのファッション市場で最も有効な法的保護として注目されている。

商標 (Trademark)

ファッション アイテム そのものは商標登録できないが、ロゴは登録可能だ。多くのブランドは、自社製品を保護するべく、商標登録されたロゴを製品に載せる。強い認識力を持つブランドほどロゴも含めて製品をコピーされることが多いので、商標登録されたロゴは自社製品を守る大きな盾となる。小さなブランドはロゴを取り除かれて商品のデザインだけをコピーされることもあり、弱い。

ファッション ブランドに知的財産保護は必要?

ファッション ブランドが知的財産保護を獲得すべきかどうかという議論は尽きない。その際特に、ファスト ファッションに打ち勝つべきには?という目線でその議論を展開すると、大きな障害となるのが「時間」と「コスト」だ

時間

ファスト ファッション ビジネスにはスピードがある。しかし、特許や商標の取得には非常に時間がかかる。申請が降りる頃には、流行は廃ってしまう。長く続く確信があるデザインについてのみ、法的保護は意味を成すと言える。

コスト

各申請には当然コストが掛かる。申請費用に加えて弁護士費用も重なる。そしてそういった費用は最終的に消費者に返ってくる。低価格が売りのファスト ファッションに比べて益々価格の差がひらいてしまう。

終わりなき戦い

デザイナー ファッション ブランド にとって、ファスト ファッションは皮肉にも、成長材料なのかもしれない。デザイナーたちは、この競争を勝ち抜くため、模倣が難しいデザインを作り出そうとし、更に技術を高めていく。より特別な存在になっていく。ファスト ファッションとの差を広めていく。

しかし考えてみて欲しい。現実的に、ファスト ファッションで買い物をしている人たちの内一体どれくらいが、自分が買う$59.99 のドレスが実は他のデザイナーの作ったデザインだと知っているだろうか。

誰かのデザインしたものの模倣であると知らずに買う人は、そもそも元のブランドにとっては顧客ではない層であり、全く別のマーケットに属する。デモグラフィックも価格帯も全く異なるマーケットに持ち込まれたそのデザインから、元のブランドに返ってくる価値はないに等しい。

更に最近では、ファッション感度の高い人もファスト ファッションを選ぶ傾向がある。デザイナーの模倣と知った上で選ぶ人も出てきたのだ。インスタグラムをはじめとしたメディアで、#ootd などのハッシュタグをつけて毎日自分の装いをアップデートするには、新しい服が必要だ。その背景に、「安いものを上手に着こなす」という前向きなメッセージを含んで。

そして、忘れてはいけない事実 – 序章 のファッション業界資産ランキングにあった通り、今ファスト ファッションはデザイナー ブランドと並ぶほど、多くの利益を生み出しているのだ。

ファッション デザインに正義を

私の周りには、自分のブランドを立ち上げたりそれを夢としている友人がたくさんいるし、大手のブランドでデザイナーとして働いている友人も多い。彼らは、マーケティングの下、確かな顧客層に響くよう常にデザインを練っている。

そしてブランドのコレクションは、それを構成するそれぞれのアイテムが一つとなって織りなすストーリーとして生み出されている。その内の何かが単体としてファスト ファッションにしょっ引かれ、あっという間に模倣品として商品化され、ストーリーが世に出るよりずっと早く、大衆的な市場出ていく。最近では若手の無名のデザイナーのデザインまで、ファスト ファッションの標的になっている。若いデザイナーに大手ファスト ファッションと戦う財力も体力もないのを、知ってか知らずか。

美術品の贋作は罰せられるが、ファッションは実用的なものという性質につき、模倣品を取り締まるのが難しい。故に、ファスト ファッション市場は新しいビジネスとして成功しており、たくさんの利益を生み出している。

ファッションが好きである以上、私はクリエイティビティを応援したい

参考文献

Additional sources for this article include:

“Fashion Design and Copyright in the US and EU”, World Intellectual Property Organization, http://www.wipo.int/edocs/mdocs/mdocs/en/wipo_ipr_ge_15/wipo_ipr_ge_15_t2.pdf

“Copyright, Trademark, Patent: Your Go-To Primer for Fashion Intellectual Property Law”, Fashionista, https://fashionista.com/2016/12/fashion-law-patent-copyright-trademark

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