オンライン派にも足を運んでもらいたい、ビューティ リテール ビジネスが加速中!?
アメリカはオンライン ビジネスが非常に強い国である。国土が広く、東西海岸及びその他の主要都市を除くといわゆる田舎エリアも多いので、車で行ける範囲内にモールが一つのみ、みたいな環境も。その状況ではオンライン ショッピングが必然的に選ばれる。新しいものやレアなものを買うとなったらなおさら選択肢はオンラインのみに。化粧品もお店ごとのある一定の条件を満たせば返品ができるアメリカでは、オンラインは主流だ。
NYC (ニューヨーク シティ)ではどうだろう。新しいブランドや話題のアイテムが発信される街であるNYC には、多くのビューティ ブランドのフラッグシップ ストアがあるし、デパートやスペシャリティ ストアを探せばだいたいのブランドの取り扱いがある。むしろ、オンライン限定で始まったスキンケア集中型ブランドである Glossier も購入可能な実店舗が Soho にあるし、 毎月定期的に化粧品が詰まった箱が届くサブスクリプション ビジネスの先駆けであった BirchBox も同じエリアにお店を開いてしばらく経つ。オンライン ビジネスは、実店舗を構えることでオフラインでのコミュニケーションをも図っている。
しかし一方で、ニューヨーカーは忙しい。買い物に行き、商品を手にとって色、質感や感触を確認し、長いレジに並んで購入する時間はないし、そもそも大手のお店は観光客が多くて足を運びたくすらない。そんな理由で、せっかくお店があるのにオンラインで注文して、届いたら試してみて気に入らなかったら返品、というケースも多いよう。例えば私の周りに Glossier を使っている人は多いけれど、Soho にお店があることは知らなかったり知っていてもオンラインを選ぶのがほとんど。あのロケーションは観光名所や観光客がインスタグラムにあげたい場所、みたいになっている印象。
そんな中、ここのところ立て続けに NYC のビューティリテール ビジネスにおける新しいニュースが目に付いた。オンラインが主流の今、あえての実店舗での新しい試み。まだ私も足を運べていないところがほとんどだけれど、記事をいくつかご紹介。行く機会があっておもしろかったらレビューもしていく予定。
ビューティに特化したスペシャリティ リテール ビジネスを展開する Ulta の NYC 初の店舗が Upper East Side にオープンした。Ulta は 創業1990年。ハイエンドからローエンドまで様々なブランドのスキンケア・ヘアケア・ボティケア・メイクアップ が揃うお店。競合であるSephora は LVMH (ルイ ヴィトン モエ ヘネシー、いわゆる ルイ ヴィトン グループで、ラグジュアリー ビジネスを牽引する巨大コングロマリット)が親会社として運営しているので総じてハイエンドなブランド・店舗展開がされているのに対して、Ulta は同じハイエンド ブランドも扱っているのにも関わらず庶民派な感じ。
私は Ulta は聞いたことはあったけれど見たことはなかったので、先日アップタウンに行った際に覗いてみた。Sephora はテーマカラーである黒・白・赤を基調にした重めの空間なのに対して、 Ulta は白い壁と床の明るい店内。Dior、Nars、Yves Saint Laurent などのハイエンドから、Urban Decay、Too Faced、Clinique といったミッドレンジ、そして Maybelline、CoverGirl、e.l.f. などといったローエンドまで、圧倒される取り扱いブランドの数々。
ブランドや価格帯にこだわらず、例えば「新しいアイライナーが欲しい」、「日焼け止めを買い替えたい」といった目的があった時に縛りがない状況で多くの商品を見比べることができるのは非常にいい点だと思う。デパート、Sephora のようなハイエンドのスペシャリティ ストア、そしてドラッグストアと3つの異なる形態のお店に行く必要がない!ただ一方で、もし最終的にラグジュアリーなカテゴリーのブランドから何かを買おうと決めた際、私は Ulta で買おうとは思わないかもしれない、と感じた。ラグジュアリーを購入できる最も庶民的なお店、という印象で、エクスペリエンスという部分においては高級品を買う上で最高の状況ではないかな。
しかしとにもかくにも、便利なことには違いない。しかもクーポンコードなどプロモーションがハイエンドからローエンドまでどの買い物においてもお得に適用できるなら、確かに理にかなっているかもしれない。事実、Bloomberg によると、2015年に Ulta はアメリカにおけるビューティスペシャリストリテールビジネスにおいて Sephora を抜いてアメリカ最大のシェアを手に入れたとか。
一般的に、長い間 NYC に実店舗がなかったのに満を持してマンハッタンに旗艦店をオープンするということは、ビジネスの存在を主張したりマーケットの注目を浴びる意図がある場合が多い。何かブランドにおける大きな決断があるのを感じさせる。Ulta の快進撃は更に加速するかも。
カナダ発の低価格・高品質なスキンケア ラインとして知られる The Ordinary は、今までオンライン限定で、売り切れ続きのブランドとして知られていた。それが、以下の記事によるとThe Ordinary は来年には Sephora で購入可能になるとか。アイテムについては未発表だけれど、店頭及びオンラインで展開されるそう。
[http://www.refinery29.com/2017/11/183353/deciem-the-ordinary-sephora]
The Ordinary ではレチノールや乳酸など、話題の成分が濃縮されたセラムがかなり低価格で展開されている。私は Sunday Riley の Good Genes で乳酸を取り入れているけれど、買いやすくなるのを機会に The Ordinary も試してみたいな。
更にはどうやら、NYC での実店舗オープンも控えているらしい。
WWDによると、マンハッタンの中心エリアに、The Ordinary を展開している会社 The Abnormal Beauty Company がこの秋に出店するとか。オフィシャル インスタグラムを見てみるとどうやら遅れが出ているようだけれど(NYC で店舗オープンはまず遅れるのがほとんど!)、近日オープンの模様。
インスタグラムやユーチューブでバズって拡散されていく多数のブランドの一つである The Ordinary も、いよいよ次のステージへ といった感じなのかな。
ビューティに関する総合的なウェブサイトである Byrdie が、”Byrdie Beauty Lab”として、編集部が試して厳選した商品を展開するポップアップを12月前半限定で Soho にオープン。Byrdie は若い世代を中心に厚い信頼を受けているビューティ ウェブサイトだが、リテールの経験は乏しいので、Byrdie Beauty Lab オープンに際してタッグを組んだのはアメリカの高級デパートである Nordstrom。
そして Nordstrom のオンラインショッピングサイトにも Beauty Labとしてページが展開されている。セレクションを見てみたところ、いわゆる王道のアイテムがズラリ。ベストセラー のオンパレード。Byrdie は誰にでも受け入れられる無難なものから新しい挑戦的なものまで特集する幅広い編集の印象で、もう少し尖ったキュレーションを期待していたので意外だったかも。
何はともあれ、ビューティに特化したウェブサイトが大手高級デパートと協業で NYC にポップアップを展開するというのは非常におもしろい取り組み。日本では Voce、Maquia や美的といったビューティ雑誌の勢いは依然強いようだけれど、アメリカでは雑誌の衰退は日本より著しくそれはビューティ雑誌もしかり。一方で雑誌を母体としていない、Byrdie のようなビューティ ウェブサイトは多く、私もよく情報源として活用している。今回の NYC でのポップアップは売り上げより Byrdie という媒体のブランド認識の獲得を目的としたものであろうが、そこから今後更に異なるリテールへの参画も匂わせるとても興味深い動き。
クリスマスを控えた今のマンハッタンはほぼ観光客に占拠されている印象で、ウィンドウ ディスプレイやホリデー ギフティングのプロモーションでリテールが最大に盛り上がるタイミング。ビューティ業界も、あえて賃料が高く競争の激しい NYC で新しい取り組みをしているのがよくわかる今回の3つの動き。特にビューティの新しいトレンドがソーシャル メディアに左右されることが多い最近は、オンラインでのリンクによって導かれるセールスが大きい中で、あえて実店舗を構える上で掲げる戦略は多様性を増している気がする。今後も引き続き注目していきたい。