セレブリティ系ビューティブランドについて思うこと

ここ数年アメリカのビューティ界で立て続けに誕生している、セレブリティ系のブランド

ファッションや香水では多かったこの動きは、今ビューティにおいても大きなビジネスとなっている。立ち上げ、商品開発、マーケティング、ブランディングなど、どの段階からどの程度関わっているかの度合いは(消費者から見えにくいが)様々あるはず。しかし広告イメージモデルとなるブランドとの契約やコラボレーションのような従来の枠組みよりはずっと踏み込んだ形である。

私が思いつく限りで、セレブリティが関わっているビューティブランドをいくつか挙げてみる。

セレブリティ系
ビューティブランドの例

FENTY BEAUTY

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Fenty Beauty
https://www.fentybeauty.com/
クルエルティフリー: ○ | ヴィーガン: 商品による

人気ミュージシャンでファッションブランドも持つ Rihanna(リアーナ)が LVMH と手を組んで2017年に立ち上げたハイエンドなメイクアップブランド、Fenty Beauty(フェンティ・ビューティ)。オフィシャルサイト以外は同じく LVMH のビジネスであるセフォラでの独占販売。

Rihanna らしい大胆で自信溢れるルックを実現させる商品展開とともに、多様性に配慮したファンデーションやコンシーラーのシェード展開を積極的に進めた。ベースメイクは現在50色展開!

この影響力は絶大で、既存のブランドも Fenty Beauty を追うようにシェードを拡大する動きが見られるほどに。

Fenty Beauty は2017年のローンチ当初数週間で1億ドル売り上げ、2018年は年間5.7億ドルの利益をあげたと言われている。

KYLIE COSMETICS

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Kylie Cosmetics
https://www.kyliecosmetics.com/
クルエルティフリー: ○ | ヴィーガン: 商品による

Kylie Jenner(カイリー・ジェナー)による、Kylie Cosmetics(カイリー・コスメティクス)は2015年にリッププロダクトからスタートしたハイエンドブランド。

当初はオフィシャルサイトでの販売のみながら、カーダシアンファミリーとしての人気と彼女特有のぽってりした(人工的な)唇への注目から、売り切れ続出のブランドとなった。現在はメイクアップ全般の商品が展開され、最近 Ulta でも取り扱いが始まっている。

Kylie Jenner は2018年、20歳にしてたった3年でビューティビジネスを成功させ9億ドルの財産を手に入れた女性として Forbes に取り上げられた。ソーシャルメディアの活用も成功の大きな要因と記事は書いている。

FLOWER BEAUTY

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Flower Beauty
https://www.flowerbeauty.com/
クルエルティフリー: ○ | ヴィーガン: 商品による

Drew Barrymore(ドリュー・バリモア)による Flower Beauty(フラワー・ビューティ)は2013年、ウォルマート限定で販売を始めたメイクアップブランド。現在はそれに加え、オフィシャルサイトと Ulta でも展開されている。

子役からスタートし俳優として長いキャリアを持ちながらも親しみやすいキャラクターである彼女が考える、多くの人にパワーを与えるハイクオリティでハイパフォーマンスなメイクアップを手の届きやすい価格で展開する。

HONEST BEAUTY

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Honest Beauty
https://www.honest.com/beauty-products
クルエルティフリー: △(不透明)| ヴィーガン: 商品による

俳優の Jessica Alba(ジェシカ・アルバ)は自らの出産を機に、日常的に使う身の回りの製品に含まれる成分に疑問を持ち、有害な成分を極力控えた洗剤やベビー用品など幅広い商品を扱う The Honest Company を2012年に立ち上げた。

Honest Beauty(オネスト・ビューティ)はその一部として2015年にオフィシャル・サイトとポップアップストアでローンチし、手に届きやすい価格帯のスキンケアとメイクアップを展開する。現在はターゲットやアマゾンでも購入可能。彼女の健康的なイメージと親として成分に気遣う姿勢がクリーンビューティのブランディングを後押しする。

HAUS LABORATORIES

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Haus Laboratories
https://www.hauslabs.com/
クルエルティフリー: ○ | ヴィーガン: ○

満を持して今月ローンチしたのは、人気ミュージシャンで最近は映画俳優としても成功した Lady Gaga(レディー・ガガ)による Haus Laboratories(ハウス・ラボラトリーズ)

幼い頃自らの容姿に自信がなかったいう彼女にとって、自分をトランスフォームしてくれるメイクアップが持つパワーは大きかったそう。そうして作り出したスーパーヒーローが Lady Gaga であり、自分の美を見つけ勇気を与えてくれるメイクアップへの情熱から生まれたのがこのハイエンドブランド。

肌の色やジェンダーの多様性を意識したマーケティングがされている印象。オフィシャルサイトに加え、オンラインリテールのパートナーとしてアマゾンを選んだことも話題になっている。


パッと浮かぶだけでもこれだけのブランドがあり、どれもここ数年の内に誕生したものばかり。価格帯や販売チャネルは異なれど、どのブランドにも共通して言えるのはセレブリティ本人の強いパーソナリティ、もしくはメッセージがブランドに反映されていること。それが、セレブリティ系ビューティブランドがビジネスモデルとして確立する上で重要なキーになっていると感じる。

パーソナリティ vs メッセージ

もしそのセレブリティのファンであれば、メイクアップに関心があったら絶対、例え関心はなくても影響を受けてそのブランドを買ってみたいという気持ちになる人は多いのだろう。Kylie Cosmetics は特に彼女の持つパーソナリティに惹かれるファンやそれに近いフォロワー層によってビジネスは成り立っている印象がある。

一方で、私は上に挙げたブランドの中では Fenty Beauty を購入したことがあるが、正直 Rihanna のファンというわけではない。しかし彼女のメイクアップを楽しむスタンスは好きだし、肌の色の多様性への取り組みは素晴らしいと思う。以前は特定のイメージがなかったのに、Rihanna のメイクアップブランドを通して彼女が届けるメッセージに共感するに至った。

このように、ファンではなくてもそのセレブリティがブランドに注ぐメッセージに賛同し選択することは、すごく興味深い。むしろ、特定のファンだけに購買されるブランドでは結局「人気商売」に過ぎず長続きは難しい。ファンでない層を取り込むインパクトやパワーがあってこそ、そしてセレブリティのパーソナリティだけでなく強いメッセージ性があってこそ、一つのブランドとして成長を続けることができると私は感じる。


この秋オフィシャルサイトがローンチし販売が開始したセレブリティ系ビューティブランドで、気になっているものが2つある。

どちらのセレブリティも特別思い入れがあるパーソナリティではないのに、ブランドを通して伝わってくるメッセージに共感する。最後にその2つを、私が気になっている理由と合わせて紹介していく。

この秋、COOKIEHEAD が注目するセレブリティ系ビューティブランド

VICTORIA BECKHAM BEAUTY

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Victoria Beckham Beauty
https://www.victoriabeckhambeauty.com/
クルエルティフリー: ○ | ヴィーガン: 商品による

元スパイス・ガールズのメンバーということを忘れそうなほど現在はファッション・デザイナーとしての活躍が目覚ましい Victoria Beckham(ビクトリア・ベッカム)が、今月のロンドン・ファッションウィーク中に発表した Victoria Beckham Beauty(ビクトリア・ベッカム・ビューティ)

数年前にエスティー・ローダーとコラボレーションをしたこともある彼女だが、今回とうとう自らのメイクアップブランドを立ち上げた。

彼女のイメージそのままといった感じの、スリークでミニマルなエレガンスがあるラグジュアリーなラインは、シャネル、ディオール、YSL、トム・フォードといったブランドと並ぶような存在感。現在はアイメイクのみ発表されているが、今後リップメイクとベースメイクも発売される様子。

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今回発表されたアイシャドウパレット、アイライナー、そしてグリッターアイシャドウ

私がこのブランドに興味を持ったのには、競合である既存のラグジュアリーブランドの多くが達成できていなかったり現在取り組み中なポイントをローンチから3つクリアしているところ。

  1. クリーンなフォーミュラである
  2. クルエルティフリーであり、ヴィーガンアイテムには明確な表記がある
  3. パッケージにおけるサステナビリティに言及している
1. クリーンなフォーミュラである
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Clean Beauty | Victoria Beckham Beauty

ラグジュアリーなビューティは変化していて、優れた技術・性能だけではもはや充分ではない。人体や環境に悪影響を与える成分を禁止しクリーンなフォーミュラを作ることは、業界のスタンダートとなるべき。

正しいことをするために、ビジネスリスクをあえてとる価値はある。

私たちは常に動き、絶え間なく進化し、改善し、挑戦していく。

※ THE LITTLE WHIM 意訳

ブランドとして人体や環境に害があるとされている成分を使用しないポリシーを明記している。現在ヨーロッパで禁止されている1,300の成分に加え、 Victoria Beckham Beauty が独自の判断で使用すべきではないと考える30の成分をリストアップし、それを消費者は確認することができる。

2. クルエルティフリーであり、ヴィーガンアイテムには明確な表記がある
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FAQ | Victoria Beckham Beauty

Victoria Beckham Beauty は製品および原料において動物実験をしないこと、そして法律で動物実験が要求される国での販売もしないことを宣言。

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Smokey Eye Brick in Royal | Victoria Beckham Beauty

更にはヴィーガン(動物由来成分が含まれていない)アイテムの表記が明確。

例えば写真のアイシャドウ、Royal(ブルー系)はヴィーガンだが Signature(ブラウン系)には動物由来である赤の色素が含まれていてヴィーガンではない。プロダクトだけでなくカラー展開ごとにヴィーガン記述を管理してくれているので誤った判断を防げる。

オフィシャルにヴィーガン表記やヴィーガンアイテムリストすらないブランドがまだまだたくさんあり、難しい用語も多い原料リストを読みながらヴィーガンかどうか判断するのは正直面倒で困難。このブランドは消費者に明確にわかりやすく情報を提供していて、透明性が高いと感じる。

3. パッケージにおけるサステナビリティに言及している
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Sustainability | Victoria Beckham Beauty

ビューティの中でも特にラグジュアリーな市場はパッケージのサステナビリティに大きく遅れをとっていると感じる。パッケージは高級感を出し付加価値を与えやすい要素なので、ブランド・アイデンティティやデザインがサステナビリティより優先されてしまう。

そんな中彼女は、商品とシッピングに使われる素材におけるサステナビリティを強く意識していることを表明。具体的には、可能な限り使用済みやリサイクル素材を取り入れプラスチックを最小限に控えること、今後その範囲を拡大しサステナビリティ分野に強い業者と提携すること、詰め替えパッケージの開発に取り組んでいることなどが書かれている。

現在ブランドが使用しているパッケージやシッピングの素材のリサイクル方法が記述されているリンクもある。


似たような立ち位置にいる既存ラグジュアリーブランドはどこかおごっているところがあり、こういった重要なポイントがおざなりになっている感を否めない(以前彼女がコラボレーションしたエスティー・ローダーしかり!という皮肉)。ラグジュアリー = 伝統 みたいな未来のない頑固さはもう終わりにしないと。

Victoria がこうやってできること、他のブランドもできるはずなのでは?と思っちゃうよね。

FLORENCE BY MILLS

FLORANCE

Florence by Mills
https://florencebymills.com/
クルエルティフリー: ○ | ヴィーガン: ○

続いては打って変わって若々しいフレッシュなブランド。Netflix オリジナルドラマ Stranger Things の Eleven 役で一躍人気者になった15歳の俳優、Millie Bobby Brown(ミリー・ボビー・ブラウン)がスタートさせた Florence by Mills(フローレンス・バイ・ミルズ)。若い世代にも手の届きやすい価格でスキンケアとメイクアップが揃う。GenZ 向けの Glossier(グロッシエー)的なアプローチかな。

ブランド名の Florence は彼女にとって大切な存在である曽祖母の名前だそうで、Mills は本人のニックネーム。

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GenZ をターゲットにしたビジュアルと商品展開

私は正直ターゲット層ではないけれど、それでも関心を抱いたのはちょうど Mills と同じ世代の姪っ子がいるから。彼女の周りには毎日学校にメイクアップをしてくる友達がたくさんいたり、本人もコスメに少し興味を持ち始めたり、そんな年頃。10代が自分でコスメを買いに行く場合、メイベリン、レブロン、ロレアルなどドラッグストアでおなじみのブランドから始める子も多いと思う。

そういった既存のブランドと比較した際、初めて自分で買うコスメとして Florence by Mills のようなブランドはいいんじゃないかな、と思うポイントが3つある。

  1. クリーンなフォーミュラである
  2. クルエルティフリーで、100%ヴィーガンである
  3. 売り上げの一部が小児がんのチャリティに寄付される
1. クリーンなフォーミュラである
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We Keep it Clean | Florence by Mills

徹底されてはいないけれど、最低限のクリーンさはある成分基準。具体的には、パラベン、硫酸塩、フタル酸、人工香料は使用しないとのこと。ドラッグストアブランドにはこういった化学成分が多用されているので、まだ成長をしている若い頃から悪質な成分を避けられるのはいいと思う。

その代わり、ビタミン、抗酸化成分、植物由来成分を積極的に取り入れている。

2. クルエルティフリーで、100%ヴィーガンである
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FAQ | Florence by Mills

ただひたすら拍手(パチパチ)!これ以上クリアなことはない – 動物実験なし、動物由来成分なし。

そして Florence by Mills がこれをアピールしていることで逆に、「記載がないブランドは動物実験していたり動物由来成分が入っているってことなの?」と若い世代が疑問を抱き、現状を調べるきっかけになるといいな。

3. 売り上げの一部が小児がんのチャリティに寄付される
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Love for Liv | Florence by Mills

どうやら Mills は友人を白血病で亡くしているそう。その友人 Liv が生きた証と小児がんに苦しむ子供たちのために、彼女は Olivia Hope Foundation を立ち上げている。

Florence by Mills の売上げからもこのチャリティに寄付されるとのこと。

若い世代であってもこうやって自分の購買行動を通して慈善活動に関われることを知るきっかけになるいい働きだと思う。


先述の通り私はこのブランドのターゲットからは大きく外れてしまうけれど、総じて感じるのは「こんなブランドが私がティーンエイジャーの頃にあったらよかったな」ということ。

まだ不慣れでコスメのことがよくわかっていない年齢でも、今の時代はソーシャルメディアで自ら情報を手に入れやすく、Mills が発信する大事なポイントは伝わりやすいはず。自然とそのメッセージがこれからビューティがもっと身近になっていく世代に広がって、この基準が最低限当たり前、と若い消費者に解釈されたら、ビューティ界の未来は少し明るくなる気がする。

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