Breaking_a_promise

5年前の夫婦の約束を、破ることにした話

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2015年秋、私たちはニューヨークのカトリック教会で小さな結婚式を挙げた。あの日から、もう少しで5年になる。

2013年秋からニューヨークで一緒に暮らす、(自称)ほっこり系カップルの私たち。話し合いや議論は多いがケンカは少なく、結論を一緒に出したり出さなかったりしながら、日々言葉に乗せて気持ちを交換し合う。その言葉というのは、85%(私のレベルにあわせた)英語、15%(夫のレベルにあわせた)日本語といったところか。

似ている同士が楽なカップルもいれば、違うタイプに惹かれ合う二人もいるだろう。私たちは、生まれも育ちも肌の色も信心も文化も異なる(年齢だけは近い)けれど、なんだかんだで共通・共感するところが多い。多くのものを共有するようにもなった。今では、私は夫のアイドルであるデイビット・ボウイを、彼は私の学生時代の思い出のくるりを聴くように。

外国人ってすごく違う存在に感じがちだけど、「好きになった人が外国人だった」というのを、身をもって理解する。むしろ外国人同士である以外は、波長とか、視点とか、エンパシーとか、優先するものとか、そうゆうのが似ているのが、私はものすごく心地いい。

・・・とはいえ違うところも、もちろんある。

夫はロマンチストだ。どっかーんとわかりやすいロマンチストではなく、じわりと。一方私は、現実的っていうのかな – 貧乏くさいことでロマンチシズムを台無しにしちゃうタイプ。夫のロマンチスト具合が時にほんのり表れると、どうしたらいいか慌てふためく。どっかーんと出てきたら「肝弁して!」とも言えそうだけど、じわりと伝わってくるので、冷静を装いつつ内心(きたーーー!)と感じている。

結婚5周年を迎える。「指輪を贈りたい。」と、夫は言った。

(・・・きたーーー!)

ところが、彼の胸の内を聞いてみると、どうやら結婚式前に約束していたらしい。私はすっかり忘れていた。

当時、某ファッションブランドでの就職を決め、パーソンズ美術大学の卒業を目前にしていた私は、残高に余裕がなかった。学費、結婚式、移民手続きの弁護士費用、とまぁ、出費ばかり。夫は安定した収入があったが、それまで住んでいたアパートの売却、新しく購入、というお金の動きもあり、お互い毎日、$$$のことを考えていた。節約しつつもプライドだけは高い私は、収入がしっかりしている夫にばかり全てを払ってもらうのも嫌で、なかば意地でなんとか一部を負担していた。

「結婚指輪を買わなくちゃ!」もはやそれは、楽しい買い物ではなく、長ーい出費リストに載る一つだった。今思えばスキップしてもよかったのかもだけど、比較的トラディショナルな結婚式で結婚指輪なしという選択肢も浮かばず。夫が二人分買ってくれる予定だったとはいえ、身の丈に合わないものは欲しくなかった。いろいろ見始めると気持ちがときめいてしまうので、かわいいと思うものは切り捨て、予算でまずフィルターをかけて選んだ。

どうやらその時に、彼はこう言ったそうだ。「今は君が思う通りに選ぼう。そして5年後に、その時欲しい指輪をまた買おう。」

・・・そういえばそんなこともあったかも?あったとしても、本気だったの?その結婚指輪は、婚約指輪と共に今もしっかり身につけている。思い入れが特別強いわけではなかった指輪も、5年間左手の薬指にいる内に肌になじんだ。

「いや、指輪はあるからいいよ。それより私、中古の自転車とヘルメットが欲しい!」- 私は、現実的に欲しいものをひっぱり出してきた。

夫はこう答えた -「そうだね、自転車はいいアイデアだから考えよう。でも、自転車はいつか壊れたり手放すかもしれない。僕は5年前の約束を果たし、5年間夫婦として過ごした二人を形に残し、君がこれからずっと身につける指輪が買いたい。」

(おぉぉぉぉぉぉおおおおう。きたーーー!律儀なロマンチスト。)

私は続けた -「自転車は中古でも高いし、メンテナンスとか考えたらかさむだろうから、大きな買い物として5周年記念によくない?」

夫は、ロマンチックな考えを譲らない。

説得にかかった私はこう言った -「一緒に出かけたいから2台欲しいなぁ。私たちの5周年なんだから、私だけの指輪より二人のものにしようよ。」

夫は、さらなるロマンチックな返答をする。

私は奥の手を出す -「ほら私、サステナブルとかエシカルとか大事じゃない?必要なものに使おうよ。」

ロマンチックな夫は、それでもやはり折れなかった。

忘れていた、ロマンチストな夫と非ロマンチストな私だけれど、頑固なところは共通しているんだった!

この人は、優しいロマンチストで、約束を守りたい、5年間を愛でたい、頑固だ。私は、現実的で、色気のない、頑固だ。理性で彼の愛情に対抗しようとしている。理屈で約束を破ろうとしている。

うやむやにして、会話を終わらせた。しかし数日後にまた聞かれた。うやむや、再訪、を繰り返す。私たちは、ほっこり系頑固カップルだ。

ある晴れた日、日中に一人で近所の公園に散歩に出かけた。パンデミックが起き、3月に外出禁止令が出て以来、一人で外出する機会は数えるほどしかなかった。7年間一緒に暮らし、その内5年間は夫婦として過ごしてきた私たちは、実はこの半年ほどの間、今までにないほど密な時間をすごく狭い空間で共有していたことに改めて気づく。

5年前の約束、5年間夫婦として歩いてきた今の私たち、これからずっと身に付けるもの。

久しぶりの一人の時間の中で、彼の気持ちがじっくり伝わってきた。プロポーズしたのは夫とはいえ、頼まれたから結婚したわけではない。お互いそうしたかったのだ。私にとっては遠い、夫にとってはホームのニューヨーク。私には払った犠牲もあるが、ここで得られたものも多い。それを常に一番近くで応援し、何かを成し遂げるたびにどんな小さなことでも誇りに思ってくれていた。一緒にいる中で、変わったところも、変わらないところも、お互い尊重し合ってきた。

7年の間に、いろいろあったとはいえ、過ぎてみればどれも二人の軌跡をつくるのに欠かせないピース。例え苦さが残るものでも、振り返りたくない思い出などない。この半年に限っては、ニューヨーク生活の中で、いや、これまでの人生において、経験したことのない混乱が起き、正直しんどかったし悲しかった。それでも、二人と一匹でほとんどを家で過ごした時間は、不謹慎かもしれないが、決して不幸ではなかった。夫と猫がいることに愛と救いを感じた。

「5年の節目を刻みたい。」公園からの帰り道には、私の思いは彼のものと沿っていることに気づいた。

そして、私たちは5年前の約束を破ることにした。5年間を共にした左手の薬指の指輪とは、これからの5年も10年もその先も、一緒に過ごしたい。取り換えるべきものではない。「これからずっと身に付けるもの」として、細いゴールドのチェーンに繊細なダイアモンドがついたブレスレットをオーダーすることにした。

“I think I know what I want(これが欲しいな).” と、私は彼と似てきたニューヨーク訛りの英語で伝える。「かわいいね。」と、彼からなめらかな日本語で返ってくる。

ニューヨークのブルックリンの小さな工房でジュエリーを作っているブランドから選んだ。リサイクルゴールドとリサイクルダイアモンドを使用し、サプライチェーンや製造における、クリーンで倫理的な取引を証明するサーティフィケーションを持っているところ。私たちの5年の標石となる輝きに、地球環境や人権へのダメージは与えないで欲しかった。これは、$$$に圧倒されていた5年前とは違う、2020年秋の私が持つ意識と思いやりを表している。

ロマンチストの夫は、実は5周年記念にロンドン旅行を企画していたことも、少し前に聞かされた。3月にはすでに、環境負荷削減を考え、アートとヴィンテージを楽しむ、ヴィーガンな旅の企画書を作っていたのに、パンデミックにより諦めたそうだ。サプライズ旅行を断念したということを知らされるという、サプライズ。

非ロマンチストな私は、彼が早くに下した理性ある決断をありがたく思った。次にいつ一時帰国できるかも未定な今、当然のことだ。ロマンチストであろうとなかろうと、やはり同じ決断もする、安心できる存在だ。

たった5年、それでも長かった。そして愛おしい5年間だった。感謝し切れないほどに、両家族からは理解とサポートをもらい、恵まれている。猫のペチコートと一緒に、私たちは幸せな家族として過ごしている。

約束を破ることにしても、それでもお互いのことを思って、その約束は違う形で新しい思い出になる。そしてそれを、次の5年、もっと長い時を経て、また一緒に私たちはきっとほっこり振り返るのだ。

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