少しご無沙汰になっていた日本語での読書。再開し、そしておもしろさに興奮してしまったのがこの本。
「楽園のカンヴァス」- 原田マハ
画家 ルソーの究極の作品「夢」を巡るこの物語。謎解きの要素を含めているのでドキドキしながらも、長年信じられてきた「誰の目から見ても美しい」芸術からの脱出をはかったモダンアートの持つ力強さを鮮やかに感じることができる。現代美術の珍奇さも好きだが、やはり近代美術のもたらした影響力は圧倒的だ。たった100年ほど前の時空の中の出来事でありつつも、世界を覆すほどの大きな美意識の変革。
パリのマティス、ピカソ、セザンヌ。そしてバウハウスのクリー、カンディンスキー、ナギ。私が美術の中でも特に好きな20世紀の近代美術 – モダンアート。ちょうどメモリアル デイ の週末に行っていたフィラデルフィアにあるThe Barnes Foundationで、自由にしかし緻密に壁一面に配された名画の数々にため息をたくさんついてきたばかり。この本を読み、今まであまり関心のなかったルソーの作品も改めてじっくり見たいと思っているところ。
その本に惹きこまれていればいるほど、読み終わるのは悲しいけれど、そこから私の興味を更に広げ、もっとそこから繋がる世界を見たいと思わせてくれるのは読後の楽しみ。例えば平日の通勤電車の中で、美術史の本を少し読み返している。週末は今までに増してもっと美術館に行く。バーゼルに行ってみたいと思いを馳せる。
徒歩で行ける距離にあるMoMAがより一層ありがたくなる。そして今月末にまた出張に出向くパリでは、オルセー美術館でルソー展が行われているとのこと。幸運としか言いようがない。
更にこの本を読みながら気づいたこと。まだ読み終わっていないのにあまりに気持ちが高ぶり、夫に本の内容を説明していた際、彼がこぼした言葉 – 「典型的に日本の小説だね」と。一つの名画を巡り細部にとことんこだわり、そしてそれらを丁寧に関連づけし、どんどん人も巻き込んで大きなストーリーを進めていくスタイルが、アメリカ人の彼にはそう感じられたよう。そうか、やはりそれだから日本語での読書は生まれ育った言語・文化の持つ味を知っている私の感覚をこの上なく躍らせるのか。
そういえば、ナイト シフトのドアマンも、私に会うたびに今熱心に読んでいるという村上春樹の話をしてくる。彼はあっという間にほとんどの村上作品を読破していて、どっぷりハマっている様子。本好きの彼曰く、村上春樹は唯一無二の作家だと。翻訳版であっても、日本の小説の特徴を読み取り、それを好きなのかもしれない。日本語が母国語だと気づかない何かがあるのだきっと。
久しぶりの、この本を知ってよかったと思えるほどの小説。日本人の友人から、読み終わったからどうぞ、と何気なくもらった何冊かの中に含まれていた、自分で選んだわけではない本。そうゆう出会い、愛でてしまうタイプ。
http://www.shinchosha.co.jp/book/125961/
原田マハは他にも近代美術に関わる小説を出している。
http://www.shinchosha.co.jp/book/331752/
マドリードでみたゲルニカ。ピカソの祖国スペインでの悲劇を捉えた絵画がスペインに戻って展示されていることの意義を、この巨大な作品を目の前にして胸がぎゅうっとなりながら感じたのを覚えている。次はこれを読もう。