ニセモノの肉?インポッシブル・バーガーを食べたよ

最近アメリカで話題になっているインポッシブル・バーガー(Impossible Burger)をご存知ですか?

インポッシブル・バーガーは、2011年にサンフランシスコを拠点にスタートしたインポッシブル・フーズ社(Impossible Foods)が開発した、肉の代替品のハンバーガー

burger
courtesy of Impossible Foods

ニューヨークでインポッシブル・バーガーを食べられる場所が増えている中、私も今日食べてきた!今回はインポッシブル・バーガーの基本情報、ミッション、私の感想、問題点、更には競合であるビヨンド・ミート(Beyond Meat)との比較も含めてまとめてみたよ。

1. インポッシブル・バーガーとは?

先述の通り、インポッシブル・バーガーはインポッシブル・フーズが独自に開発した革新的な肉の代替品となるハンバーガーパテ。100%プラントベース(植物由来)。

Impossible Foods
https://impossiblefoods.com/

先月、アメリカの大手ファストフード・チェーンであるバーガーキングが、ミズーリ州セントルイス周辺の店舗限定で実験的にインポッシブル・バーガーのパテを使ったワッパー(Whopper、バーガーキングの看板商品)の発売を開始し、大きな話題になっている。

インポッシブル・ワッパーは今後アメリカ全土で展開されることが計画されている。国内に7,000店舗あると言われているバーガーキングが動物性ではないパテのハンバーガーを導入するのはすごく大きなこと!

参考記事: Burger King plans to roll out Impossible Whopper across the United States (CNN)

原料

インポッシブル・バーガーは主に大豆のタンパク質でできている。今までにもアメリカには植物由来の肉代替品はあったけれど、その中でもインポッシブル・バーガーが革新的なのは、限りなく本物に近い肉の風味を再現しているところだ。秘密は独自に開発された大豆ヘモグロビンにある。

heme
courtesy of Impossible Foods

この大豆ヘモグロビンはヘム(heme)と呼ばれている。大豆の根から抽出されるDNAをイーストに混ぜて、ベルギービールの醸造に倣った方法で発酵することでヘムは作られる。試行錯誤を重ねて、インポッシブル・フーズは極めて肉の風味に近いヘムの抽出に成功した。

ミッション

これはヴィーガニズムそのものの基幹の一つと言えるが、インポッシブル・フーズが掲げるミッションは環境保護だ。

mission 1
courtesy of Impossible Foods

私自身、肉を食べるのをやめてからしばらく経つ。動物を人間が食用にすることに反対するのと同時に、畜産業が地球や自然環境に与えている悪影響の大きさには正直嫌気がさす。

畜産業については様々な意見がある中、私がここで特に大きな問題として挙げているのは、大手レストランやファストフードチェーン、スーパーマーケットや加工食品業界などが動かしているビジネスとしての畜産の醜さだ。異常なスピードで動物を巨大化させ、それには大量の土地・水を必要とし、更には大量のメタンガスと二酸化炭素を排出し、環境破壊のスピードを超急速にあげている。

インポッシブル・フーズは、動物と自然を犠牲にしながら人間が肉を食べることは prehistoric(過去のこと)であり、destructive(破壊的なこと)であるとしている。とはいえ、ハンバーガーやホットドッグを食べること、週末のバーベキューなどの楽しさはこれからも残していきたい。それで誕生したのが彼らのコンセプトだ。

mission
courtesy of Impossible Foods

植物ベースのインポッシブル・バーガーは、通常の牛肉のハンバーガーに比べ、96%の土地、87%の水、89%のメタンガスや二酸化炭素などを省くことができる今後世界の人口は増加の一途を辿ると言われている中で、環境に優しい肉の代替食品のビジネスは大きな意義があると言える。

2. 食べてみた感想

基本情報を踏まえた上で、大切になってくるのは美味しいかどうか。

ニューヨークをはじめアメリカにはヴィーガンやベジタリアン向けのハンバーガーはたくさんある。野菜、豆、キヌア、きのこを使ったものなど種類は豊富で、そして美味しい!とはいえ、これらは肉の味を再現しているとは言えない。別物として美味しい、と言った感じ。久しく肉のハンバーガーを食べていなかった私は、「ニセモノの肉」のハンバーガーをすごく楽しみにしていた。

私が今回インポッシブル・バーガーを使ったハンバーガーを食べに行ったのは、ベアバーガー(Bareburger)

Bareburger
https://www.bareburger.com/

ニューヨーク発のハンバーガー屋さんで、日本には自由が丘と銀座にあるみたい!(2019年5月現在、日本ではインポッシブル・バーガーは提供されてない。)

ベアバーガー
http://www.bareburger.co.jp/

ベアバーガーは2017年、アメリカの全店舗で100%ヴィーガンなメニューを加えた。

bb

私がオーダーしたのは The Original という最もシンプルなハンバーガー。パテのみならず、使用されるバンズやチーズ、ソースも全てヴィーガン。

imp burg

初めてだったので、お店の人が勧めるミディアムで調理してもらった。運ばれてきた私のインポッシブル・バーガー、見た感じは普通のハンバーガーと全く変わらない。

imp burg3

早速食べてみて・・・あまりに久しぶりにハンバーガーを食べた衝撃と、まさしく覚えていたハンバーガーそのままの味がした衝撃が同時にやってきて大興奮!私はあまりグルメではないので難しいことは言えないし美味しいか美味しくないかくらいしかわからないのだけど、これはすごく美味しかった!もしヴィーガンやベジタリアンではない人が食べても、満足するんじゃないかなと思ったくらい。

私はミディアム・レアの方が好きなので、今度はそれで注文してみたいな。とにかく、大満足。野菜バーガーでは得られない「ハンバーガーらしさ」が確かにあるし、おまけにしっかりタンパク質も摂れるのもいい。

3. 問題点

動物実験

100%ヴィーガンでありつつハンバーガーの味がするランチができて満足した後、もっとインポッシブル・バーガーについて知りたくなり調べてみたところ、一つ残念な点を見つけた。

インポッシブル・バーガーは商品化にあたり、動物実験が避けられなかったということだ。この製品はあくまで加工食品であるゆえ、FDA(Food and Drug Administration、食品医薬品局)から食品として安全性の認可を受けるにあたって、最小限に規模を抑えつつも動物実験をした事実をファウンダー兼CEOは認めている。

必ずしもヴィーガン(ここでは「動物由来の成分を含まない」を指す) = クルエルティフリー(ここでは「原料・開発・製造・販売の過程で動物実験を必要とする手段を取らない」を指す)ではない例の一つだ食品や薬品の分野での安全性の確保における動物実験の廃止は極めて難しい。化粧品や日用品における動物実験には100%反対している私も、これに関しては、インポッシブル・フーズがもたらす環境保護への大きな貢献を考慮し、 “for the greater good” (より大きな善のために)避けるのが難しかったために生まれた犠牲として目をつむることしかできないかな、と思う。そしてインポッシブル・フーズはこのトピックに関して透明性の高い発表をしたことと動物の犠牲を最小限に抑えた努力があるところを強調したい。

遺伝子組み換え

更に、先述の大豆ヘモグロビンによる heme は、遺伝子組み換えによって開発されたものであることも記しておくべきであろう。

参考記事: Does it Contain Genetically Modified Ingredients? (Impossible Foods)

健康面

加えて、インポッシブル・バーガーとこの後触れるもう一つの肉代替品であるビヨンド・ミートは、どちらも従来の肉に比べ環境には優しいが、健康的であるかどうかは疑問が残る。

参考記事: Are Beyond Meat And Impossible Burgers Better For You? Nutritionists Weigh In (Huffpost)

参考記事によると、どちらも肉と比較した際、たんぱく質は多く含むが、脂肪も多く、そして塩分は高くなるそう。私は栄養学に全く詳しくないので深くは触れることができないが、これは個人で調べた上で特定の体調や健康上の問題に合わないようであれば適切な選択肢ではない。

4. 競合のビヨンド・ミート 

ちなみにベアバーガーのヴィーガンメニューには、インポッシブル・バーガーの競合であるビヨンド・ミート(Beyond Meat)を使ったものもある。

Beyond Meat
https://www.beyondmeat.com/

ビヨンド・ミートは2009年にL.A. でスタートした、100%ヴィーガンで植物性の肉代替品の先駆け的存在。えんどう豆が主成分で、ココナッツオイルでテクスチャを、ビーツのジュースで色を再現している。インポッシブル・バーガーのヘムの様な肉の風味を再現するものは含まれていない。

彼らのミッションも気候変動や環境破壊の大きな原因の一つである食肉産業・畜産に替わる新しい食の提供だ。

ビヨンド・ミートはハンバーガーパテのみならず、ソーセージやひき肉の代替も作っており、更にはレストランへの提供に加えホールフーズをはじめとしたスーパーマーケットでも販売しているのがインポッシブル・フーズにはない点。

一緒にベアバーガーに行った夫はビヨンド・バーガーを使った Golden State をオーダーしたので、一口もらってみた。

beyond

夫は空腹で hangry(hungry + angry)状態だったので写真は録り逃しちゃったけれど、奥に写っているのがビヨンド・ミートを使ったハンバーガー。

かなり分厚いパテだけれど、空気が入っていてふわっとしているというか軽い感じ。正直言って肉っぽさはインポッシブル・バーガーに劣るけれど、ヴィーガン・チーズ、野菜、ソース、ピクルスと一緒にバンズごと丸かじりしたらかなりのハンバーガー感。

全体的にさっぱりしているので、ハンバーガーを食べた後のもたれ感が苦手な人にはこっちの方がオススメかも。

最後に

私は特別肉そのものが恋しくなることはないけれど、料理として食べたくなるものはある – その一つがハンバーガー。今まで他のヴィーガンやベジタリアンのハンバーガーでは試したことがない、「超リアルなニセモノ感」には小さな悲鳴が出るほど驚いた。

グーグル・ベンチャーやビル・ゲイツなど西海岸のテック系をはじめ、スポーツ界やショウビズ界からも出資を受けていて多くの人が期待している肉の代替品のマーケット。これがもっと発展することで、急速に進んでいる環境破壊のスピードの抑制が期待できる。

ヴィーガンの人に比べて肉を食べる人は2-3倍の二酸化炭素の排出に貢献していると言われている。ヴィーガンの人が一年間に食べるものを作るのに使用する水より、肉を食べる人が一ヶ月に食べるものを作るのに使用する水の方が多いという調査結果もある。

参考記事: Avoiding meat and dairy is ‘single biggest way’ to reduce your impact on Earth (The Guardian)

インポッシブルもビヨンドもどちらも加工食品。食べ過ぎはよくない。ただ、野菜や豆や豆腐だけでは味気ないけれど、肉を減らしたい、という人にはとても意味のある選択肢だと思う。

Meatless Monday(お肉を食べない月曜日)やヴィーガンやベジタリアンのレシピに特化したユーチューブなど、少しずつ肉を減らす食生活を取り入れるアイデアやヒントはたくさんあるし、インポッシブルやビヨンドの様なビジネスも進んでいる。動物や環境のことを考えながら食を楽しむことがどんどん身近になっているのはいいことだよね。

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