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「サステナビリティ」はここ数年、ビジネスやメディアにおいて、そして人々の会話の中でもバズワードになっている。私自身も特にインターネット上では、よく知られているこの言葉が最も理にかなっているので、頻繁に使っている。
しかし最近では、「サステナビリティは古い」という考えにぶつかる機会も増えた。もちろん、サステナビリティのコンセプトをもう手放していい、というわけではない。サステナブルな暮らしやビジネスだけでは引き起こせない、今私たちと地球に必要な動きとは?という疑問が生まれていると言った方が正しいかな。
サステナビリティを補う、というよりその先を見たものとして、ここのところアメリカで目にする機会が増えているのが、環境再生(regeneration: リジェネレーション)だ。
サステナビリティと環境再生、どう違うのか。そして、環境再生が、私自身が働いてきたファッション業界でどのように取り入れられ始めているか。まだファッションの世界ではふんわりとした光が見え始めたばかりの黎明期の段階だが、暗いニュースが多い今、希望溢れる話をしたい。
サステナビリティと環境再生
どう違う?
サステナビリティは、日本語に訳すと「持続可能性」。このバズワードの下、資源やエネルギー消費の削減、環境・動物・人権への配慮や、ゴミを減らす取り組みなどが多く語られる。この言葉が示すものの奥にはつまり、過剰な生産や消費を抑え、今の状況を持続することへのフォーカスがある。これって実に皮肉なもので、私たち人間が日々行っていることは環境を破壊することを前提にしている。その悪化を止めて、せめて現状維持しよう!という考え方。どこか、限界を感じなくもない。
一方で、英語で “regeneration” と言われる「環境再生」は、私たちが日々行うことを、文字通り地球環境再生のチャンスとしてよりよい地球の未来に繋ごうという考え方。そして環境再生が美しく希望溢れると感じられるのは、私たち人間がその再生プロセスの一部であること。サステナブルと言われることは続けていきつつ、人間として見ているのは現状維持ではなく、壊れてしまった地球を蘇らせ、一緒に生き続けることだ。
さらに、環境における最大の難題とも言える気候変動を軸に考えると、サステナビリティのフォーカスは「遅らせる」ことであるのに対し、環境再生は「リバースする」ことと考えられている。
参考記事: Sustainability is Unhelpful: We Need to Think About Regeneration (The Guardian)
環境再生型農業の
ムーブメント
では、環境再生の活動は実際にどこで起こっているのか?それは主に農場である。ここ最近よく聞くようになった環境再生型農業 (regenerative agriculture) のように、農作物を育てる上で「再生」の魔法が生まれる。
私は農業に詳しいわけではないので簡単にはなるけれど、環境再生型農業の考え方とは・・・。
私たちが日常的に排出する二酸化炭素は地球の温度を上げてしまう「悪者」として考えられている。過剰になっている二酸化炭素排出の削減は、間違いなく最優先項目。特に政府や企業が大きな改善をもたらすべき事柄であり、生活者も全体像を見ながらどうしたら炭素を減らしていけるかは引き続き考えていきたい。
でも一方で、炭素は土や作物にとっては栄養。理科で習う「光合成」を考えるとわかるよね。環境再生型農業のサイクルの中では、炭素の循環を大気から隔離させ、保水力を持つ健康な土壌を保ち、生物多様性を豊かにし、丈夫な作物を作り、密な栄養素を蓄えることができる。
参考記事: What is Regenerative Agriculture? (Regeneration International)
とまぁ、科学が苦手なくせにわかったようなことを言ってしまったけれど、もし環境再生型農業になじみがない方がいたら持ち帰って欲しいのは・・・土壌に着目することで、減らせ減らせと叫ばれている、大気に放出されると地球温暖化の原因となる素は、実は地面の奥深くで活用でき、ひいては地球全体の改善と健康をもたらすということ。そこが、気候変動をリバースするというポイントにつながっている。これは自然が本来あるべき姿なんだろうね。
環境再生とファッション
あれ、ファッションの話するんじゃなかったけ?はい、します。農業というと食べ物のイメージが強いけれど、実はここのところ、環境再生(型農業)を取り入れたファッションブランドも出てきている。この記事では3つの事例を紹介する。
CHRISTY DAWN
ロマンチックでホリスティックな世界観を作る、ロサンゼルス発の Christy Dawn(クリスティー・ドーン)。
以前からデッドストックの生地を活用した洋服作りに特化してきたブランド。注文がキャンセルになったり、余剰に生産され、日の目を見なかったデッドストックを使うのは、今あるものを活用するサステナブルなコンセプトだ。
最近では、服の循環を作るべく、ファッション再販サイトの thredUPと提携し、thredUP に不要な服を送付することで Christy Dawn で使える現金かクレジットに変換できるサービスも提供している。
しかし、デッドストック生地の利用や再販ビジネスとの提携だけでは足らないと感じた彼ら。Vogue とのインタビューで、Christy Dawn の CEO は、こう話している。
Even as we shift towards a more sustainable mindset, we can’t really say that anything we’re doing is “giving back” to the earth. If designers produce smaller collections and consumers buy fewer things, it’s certainly an improvement on what we’ve been doing for decades. But an industry that’s “less bad” than it was before isn’t saying much.
いくらよりサステナブルな思考に移行したとしても、私たちが行っていることが地球にとって「還元」になっているとは言えない。デザイナーたちがより小さなコレクションを発表し、消費者が購入を控えたら、それは確かに何十年にもわたって当たり前のように行ってきたことの改善にはなる。しかし、以前ほどは「悪くない」業界ってだけでは、あまり意味がない。
Regenerative Agriculture Can Change the Fashion Industry—And the World. But What Is It? (Vogue US)
THE LITTLE WHIM 訳
そこで、かねてから惹かれていた環境再生のコンセプトをビジネスに取り入れることにした。環境再生型農業で育てられたコットンを使用するコレクションに着手していることを発表し、今年の9月に発売される予定だ。
先ほどの Vogue の記事では、環境再生型の農場がどういったものなのか、視覚的なイメージが湧く情報が詰まっている。
The easiest way to understand regenerative agriculture is to first picture what you think of as a “typical farm”: It’s probably hundreds of acres of a single crop, like corn or cotton. It probably looks normal to your eye, though not entirely natural, because it isn’t: Most of those farms use pesticides and other conventional methods, like deep tilling.
A regenerative farm is the complete inverse of that: Imagine acre upon acre of various different crops, many of them strategically planted to help each other grow and flourish. On a cotton farm, there might be rows of snap peas planted as “cover crops” to shade the soil so it stays cool, absorbs more water, and thus grows more microbiomes. Regenerative farms also implement “pollinator strips” of crops that attract bees and butterflies to the area, or they’ll add “trap crops” to divert pests from their hero crops in lieu of chemical pesticides.
“It’s really mimicking what nature does already,” Baskauskas says. “You never see just one crop in nature, you see a vast diversity. There’s a reason for that.”
環境再生型農業を理解する最も簡単な方法は、まずあなたが思う「典型的な農場」を想像すること。おそらく、トウモロコシや綿などの単一作物の何百エーカーにも及ぶ大きな農場が浮かぶはず。あなたの目にはそれが普通に見えるかもしれないしれないけれど、それは決して自然ではないこと。それらの農場のほとんどでは、農薬や深い耕起のような従来の方法が用いられている。
環境再生型農業は、それの完全な真逆の形。様々な異なる作物が広がる農場を想像してみて。それらの多くは、お互いの成長と繁栄を助けるために戦略的に植えられている。綿の農場では、[背の高い] 綿花の土壌を日陰にし温度を下げ、吸水性を上げ、微生物を育てるために「覆い作物」としてスナップエンドウの列が並んでいるかも。ミツバチや蝶を引き付ける「受粉作物」を植え、化学農薬の代わりに主作物から害虫をそらすために「おとり作物」を追加する。
これって、本来なら自然がしていることのマネっこ。だって、自然の中で1つだけの作物を見ることなんて本当はないよね。豊かな多様性があるのが自然。そこには理由があるんだから。
Regenerative Agriculture Can Change the Fashion Industry—And the World. But What Is It? (Vogue US)
THE LITTLE WHIM 訳
なるほどね。なんだかどんどんしっくりしてきた。おもしろそう。ワクワクする。楽しそう。きれい。そこで育つ綿のドレス、地球を元気にしてくれるだけでなく、私をどこかに連れて行ってくれそうなストーリーを感じる!
彼らの環境再生とファッションの組み合わせは、今私が最も期待しているところ。オフィシャルサイト上の Farm-to-Closet Initiative では、Christy Dawn が南インドにある綿の環境再生型ファーミングをしている Oshadi と一緒にドレスを作る軌跡が詳しく書かれているので、興味のある方はぜひ読んでみて。
PATAGONIA
環境に配慮したものづくりやシステム構築となると必ず名前が挙がる、パタゴニア。環境再生においても当然のように先を行っている。
彼らは、2017年に誕生した環境再生型農業に参画する企業のアライアンスを作る ROC (Regenerative Organic Certified) に、2018年に認定されている。
認定を受けた際の声明では、オーガニック & 遺伝子組み換えなしの信念を貫きながら、地球との共生を念頭においた上で、環境再生型農業を取り入れさらに取り組みを強化することを発表している。
環境再生型有機農業は表土を再建し、化学薬品による公害を削減し、気候変動の原因である炭素を土中に隔離します。これらはすべて同時に可能です。2014年に〈ロデール・インスティチュート〉の研究者は、現存の農地が環境再生型有機農業に移行すれば、世界中の毎年の二酸化炭素排出量の100%を土壌に隔離することができると予測しています。
(中略)
パタゴニアの私たちが完璧なわけではなく、ブランドとしてもそこに到達してはいませんが、私たちが進む方向については明らかです。それは住む価値のある世界を欲するのであれば、私たち全員が進む必要のある方向です。惑星の未来がかかっています。より良い農業はより健康で清潔かつ持続可能な将来を育てることができます。いまは形勢をうかがうときでも、言葉を濁すときでもなく、行動を起こさねばならないときです。大胆になろうではありませんか。
リジェネラティブ・オーガニック認証発表(パタゴニア ジャパン)
パタゴニアではすでに、ROC認定での試験的プロダクトとして環境再生アイテムが販売されているよ。フェアトレード認定も受けている。
環境再生に関する日本語でのわかりやすい文献はまだ限られている中、日本のパタゴニアのオフィシャルサイトにあるクリーネストラインでは、有益な情報が日本語訳されている!
EILEEN FISHER
エコファッションブランドとして古くから多くの取り組みを続けている Eileen Fisher(エイリーン・フィッシャー)は、Horizon 2030 Manifesto を発表した。
直線で終わらない、サーキュラーな仕組みを持つファッションを提唱するこのマニフェスト。そして前提として、生産と消費どちらも減らすというサステナビリティの基本となるコンセプトがありつつ、そこには環境再生も大きな枠組みの一つとなっている。
まずは使用する素材において、環境再生型農業で育てられた天然素材を採用すること。生物多様性と、炭素をしっかり蓄える土壌を確保することを目的としている。
さらには、気候を正すことにおいて、人と地球の健やかな関係性を視野に、ネガティブなインパクトを減らすことに環境再生の考え方で取り組んでいく。
私は、Eileen Fisher のデザイナーと話したことが何度かある。ほぼ全ての綿やリネンを100%オーガニックにすることを達成し、生産で出る余剰生地や顧客から回収した不要になった衣料の活用も進んでいる。カーボンフットプリントの削減にも積極的な上に、それらの活動に関する透明性も高い。そこに環境再生が加わったのは、更なる飛躍。
現状は、残念ながら環境再生を取り入れているのは彼らのウールの部分が中心で、個人的に動物性素材を支持しない私は利用していない。今後、綿やリネンの分野においても環境再生が活かされることに期待したいな。
その他にも、日本にも進出しているスニーカーの Allbirds(オールバーズ)や、ベーシックウェアで知られる Everlane(エヴァーレーン)も、環境再生とファッションやフットウェアをつなげる考え方を表明しているし、実際に商品化も進んでいるみたい。
最後に
サステナブルファッション、エコファッション、エシカルファッション・・・いろんな言葉を目にする機会が増え、嬉しいとともに、だんだん訳わかんなくなってくる。理解を深めれば深めるほど、気になる点は増えて、その裏にはグリーンウォッシングという言葉もチラついちゃう。
そんな中で、環境再生は、食べ物としての作物の考え方だけでなくファッションの世界にも新しい光を当ててくれていると思う。農業にあまり意識を持っていなかった私も、大好きなファッションを通してだと、ほのかにキラキラした何かが見えてきた。
まだまだ始まったばかりで、今後も引き続き注目していきたい環境再生とファッションの関係性。もし生活の中でもっと身近に環境再生を取り入れたい、という方は、ロサンゼルスに住む Natsuko さんが、実際にライフスタイルの一部として再生のコンセプトを実践されているよ。
Natsuko Matsuyama
http://natsukomatsuyama.com/
「サステイナビリティのその先にある再生を意識した暮らし」・・・素敵なコンセプト。彼女のインスタグラムもあわせて、ぜひ見てみてね。ちなみに昨年、THE LITTLE WHIM は彼女にインタビューもしています!
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