AAPI(アジア系アメリカ人と太平洋諸島民)の文芸を読む

5月は、AAPI(アジア系アメリカ人と太平洋諸島民)の歴史、文化遺産などの伝承の月だそう。

私は読書が好き。そしてこのテーマに触れられる魅力的な文芸はたくさんあるので、手元にあるものから9冊をピックアップしてみることに。

… けれどもその前に、いくつか免責事項的ポイントをあげることから始めないといけない。長くなりそうなそれを、できるだけシンプルに…。

最初に

AAPIコミュニティを祝福したい — そう心から思っても、自分の本棚をじっくり見て抜き出した関連書籍は、東アジア系アメリカ人と東南アジア系アメリカ人の著者によるものだけだった。

一言にアジアとくくっても、中央アジア、東アジア、南アジア、東南アジア、西アジアとまず5つに大きく分けられ、くわえて国・民族・宗教・文化・言語などの違いがあるのに…。そして太平洋諸島民は、正直あまり知識が深くないけれど、メラネシア、ミクロネシア、ポリネシアなどバックグラウンドはさまざまなのに…。

9冊のセレクションは、私自身が日本人なのもあり、偏りが見られる厳密には5つの異なる背景とはいえ、足りない足りない。その事実だけでも、AAPIというカテゴリーが持つ、そう簡単にカバーできない幅広さと直面するきっかけとして充分だ。

そしてアメリカ永住権所有日本人であり、アジア系アメリカ人ではない私は言うまでもなく、AAPIのカテゴリーには当てはまらない。でも実際にアメリカ社会では、「あのグループ」と分類されがち。

この大きな「あのグループ」内の違いの認識は曖昧になる傾向があり、ときに均一化のリスクと隣り合わせでもある。「あのグループ」と普遍的に扱われることに違和感や抵抗を覚え、一方で「モデルマイノリティ」としてあたかも優位かのように位置づけられやすい私は、どこかモヤモヤもする。

アジアの国々からアメリカに移住した人々の中には、日本の国がアジアで行ったことが影響したケースがあることも、(アメリカに住む日本人である私は特に)忘れてはいけない。


そういったことを踏まえると、実際には幅広く複雑な背景、歴史、文化などと、その他社会の中で生じるインターセクション(さまざまな社会的/政治的アイデンティティが交差する点)があるのだから、「あのグループ」にいる誰か一人が、コミュニティすべてを代表することはできない。それは不可能だし、実践的じゃない。

だから、異なる、リアルな声にそれぞれ耳を傾ける必要があるんだと思う。そうやって、「あのグループ」がただの一枚岩の区分ではないことの理解を深めていく。

私自身のAAPI読書リスト、もっと多様化させていきたい。もしオススメがあったら、インスタ経由でおしえてください。特に、今回触れていない部分のAAPIコミュニティに関する書籍はなお嬉しい。

リストが長くなればなるほど、AAPIについて学ぶことは増える… 5月だけにしておくのはもったいないくらい。

今アメリカや世界で、AAPI、特にアジア系の人々が日常的な攻撃を受けるヘイトクライムの多発がニュースになっている。高齢者や女性がターゲットとなりやすい。AAPIを中心とした大きな「あのグループ」内でも、そのほかのマイノリティとの間でも、連帯が弱いということも言われている。

これから紹介する文芸は物語や回顧録であり、読みものからだけでなにかが解決するわけではない。けれども、とても力強いと感じた作品ばかりなので、読書が好きな方には、もっとじっくり向き合うためのツールの一つとなるのではないかな。

books aapi

日系アメリカ人作家

“No-No Boy”
John Okada(ジョン・オカダ)

1957年

日本語訳 「ノーノー・ボーイ」(川井 龍介)

NoNoBoy

第二次世界大戦中、シアトルの日本人収容所で、日本(天皇)への忠誠放棄とアメリカ軍入隊を問われ、どちらも拒否する日系アメリカ人二世の青年が主人公。

タイトルになっている2つのNoは、当時17歳以上の日系アメリカ人には回答が義務であった Loyalty Questionnare(アメリカ政府の忠誠登録のための質問集)にあった、先述の2つの質問に由来する。どちらもYesの場合は、ほかの兵士とは隔離された日系アメリカ人だけで構成されるアメリカ軍への入隊や、軍事施設での協力をすることに。どちらもNoの場合は、さらに厳重な隔離収容所に送られ、アメリカ市民権放棄、日本への送還などの処遇が待っていた。

戦火の中多くの日系アメリカ人が抱えたジレンマと、一世と二世の間で世代を超えて引きずるアイデンティティの迷い、そこから友人、家族同士やコミュニティ内の亀裂も生んだと言われている苦悩・困難を描く小説。

当時の状況を知ることができる動画とポッドキャスト

“Shortcomings”
Adrian Tomine(エイドリアン・トミネ)

2007年

日本語訳 未発表

Shortcomings

カリフォルニア州バークレーに住む、ある日系アメリカ人カップルを描写するグラフィックノーベル。互いの「アメリカに住む日系アメリカ人観」と、実社会でのそれへの向き合い方の相違から、2人はすれ違っていく。男性・女性間で、日系/アジア系アメリカ人が持たれるイメージには相違があり、そこから生まれるコンプレックスや呪いは違ってくることも、物語における鍵になっている。

作品内に登場する、韓国系アメリカ人でレズビアンの友人の、またさらに異なる生き方からも、アジア系アメリカ人であってもみなが同じ理想を持っているわけではないことを考えさせる。

映画化が決定しており、韓国系アメリカ人俳優の Randall Pak が監督するそう。

Adrian Tomine と Randall Park の対談

“I Hotel”
Karen Tei Yamashita(カレン・テイ・ヤマシタ)

2010年

日本語訳 未発表

IHotel

1900年代初頭からフィリピン系を中心に低所得移民が多く暮らした、サンフランシスコはマニラタウンの International Hotel(国際ホテル)が舞台。都市開発にともなう建物撤去による立ち退き勧告に対し、住民だけでなく地域のコミュニティや活動団体が一丸となって抵抗し、抗議活動を展開する。取材やインタビューを重ねて書かれた短編集。

1960-70年代、同時に多くの市民運動が起きた時代 — 団結したアジア系アメリカ人が闘い、見ていたものとは。

当時の状況を知ることができる動画

“A Tale for the Time Being”
Ruth Ozeki(ルース・オゼキ)

2013年

日本語訳 「あるときの物語」(田中 文)

ATaleForTheTimeBing

2011年の津波で太平洋を渡る日記を介して展開するメタフィクション的小説。日本とカナダ、年齢もルーツも異なる2人の女性の、時空と距離を超えた交流や共鳴を描く、壮大な物語。

日本人と白人アメリカ人のミックスの著者は禅僧でもあり、作中には仏教に関する部分も多い。日本の少女が経験している非常に残酷ないじめが描写されていることは、警告として記しておきます。

Ruth Ozeki のインタビュー

韓国系アメリカ人作家

“Pachinko”
Min Jin Lee(ミン・ジン・リー)

2017年

日本語訳 「パチンコ」(池田 真紀子)

Pachinko

ある韓国人家族の4世代にわたる歴史小説。1930年代、夫ではない相手の子を妊娠した釜山のとある女性が移住したのは、大阪。そこで育つ息子や孫たちの物語が展開されていく… 一般的な成功をたどる者もいれば、(在日韓国人に多いと言われる)パチンコ店経営をする者も。東京に4年間在住した経験のある韓国系アメリカ人の著者が、在日韓国人の受けうる社会的困難を英語で著わす、希少な一冊。

日本、アメリカ、どこに住んでいても覚えがあるような、女性の生きづらさや移民への差別など辛辣な内容や表現が頻出するが、読み進める上で苦しくならないよう設計された、小説としての強さがある。

Apple TV + でドラマ化、2021年公開予定。”Minari” でオスカー受賞した韓国人俳優 Youn Yuh-jung などが出演。

Min Jin Lee によるハーバード大学での韓国に関する講義

“Crying in H Mart”
Michelle Zauner(ミシェル・ゾウナー)

2021年

日本語訳 未発表

CryinginH

韓国人の母をガンで亡くした著者(父親は白人アメリカ人なのでミックス)による回顧録。オレゴン州にある白人中心の田舎で育った思春期、アメリカと韓国の家族、音楽の世界で生きる情熱、日常的な食べ物を通して、母への思いが綴られていく。

著者は、インディ・ポップロックミュージシャンの Japanese Breakfast。

Japanese Breakfast の “Psychopomp”

中国系アメリカ人作家

“The Joy Luck Club”
Amy Tan(エイミー・タン)

1989年

日本語訳 「ジョイ・ラック・クラブ」(小沢 瑞穂)

TheJoyLuckClub

さまざまな理由により中国からの移民としてサンフランシスコで生きてきた4人の女性と、彼女たちの、アメリカで生まれ育つ娘たちのそれぞれ異なるストーリーを描く小説。

一般的に、移民一世は自分の経験した苦労をさせたくない思いから、二世である子供の教育や生活の管理が厳しくなる傾向があると言われている。親子であっても、互いが見ていることや感じていることが理解し切れず、移民一家には溝が生まれることもある。それとていねいに向き合っていく、愛の物語。

(ちなみに、中学生の頃、初めての英語での読書挑戦に私が選んだ長編… という余談)

1993年に映画化されている。2018年に発表された(こちらも小説が元になっている)”Crazy Rich Asians”(「クレイジー・リッチ!」)は、キャストがオールアジア系のハリウッド映画としても話題になったが、それは “The Joy Luck Club” の映画化から実に25年ぶりのことだった。

“The Joy Luck Club” の紹介動画(日本語字幕あり)

台湾系アメリカ人作家

“Interior Chinatown”
Charles Yu(チャールズ・ユウ)

2020年

日本語訳 未発表

IntChinatown

虚構のチャイナタウンを舞台に、映画の脚本に見立てたメタフィクション。白人と黒人が主役の映画撮影セットでは、台湾系役者の主人公は背景と化し、それは実世界での現実と見事にシンクロする。

アジア人(チャイナタウンなのに、そこにいるのはアジア人全般という普遍性のある描き方は、この作品の中で出てくるいくつもの皮肉の一つ)がアメリカで実際に生きる上で直面するステレオタイプ、マイクロアグレッションやキャリアの困難などを浮き彫りにしていく。

Hulu でドラマ化される予定。

Charles Yu と Trevor Noah の対談

ベトナム系アメリカ人作家

“The Best We Could Do”
Thi Bui(ティー・ブイ)

2017年

日本語訳 「私たちにできたこと 難民になったベトナムの少女とその家族の物語」(椎名 ゆかり)

TheBestWeCouldDo

ベトナム戦争終結後、政変による抑圧を避け祖国を脱出し「ボート・ピープル」としてマレーシアに流れ着き、その後難民としてアメリカで新しい生活を始める家族を描く。

当時幼児だった著者の記憶だけでなく、それ以前にフランス、日本、アメリカが介入し紛争が激化していくベトナムを経験した両親や祖父母の実体験にも基づく、回顧録のグラフィックノーベル。

美術教育者でもある著者は、移住してきたばかりの英語学習児童のための学校を、カリフォルニア州オークランドに創設している。

Thi Bui による著書の朗読会


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