「もうコスメの記事は書かないのですか?」
「最近のお気に入りヴィーガンコスメはありますか?」
こういったメッセージを、ときどきいただく。
書かないと決めているわけではまったくないのだけれど、インターネット上でブランドやアイテムの話をすると、なにかが未消化な感覚は必ず残る。
なので、まずは「はじめに」をぜひ一読いただいたうえで、それ以降を読み進めていただけるとうれしいです。
はじめに
私がコスメを選ぶ際、ヴィーガンかつクルエルティフリーは絶対条件。ここでまずフィルターがかかる。
<参考>
ヴィーガン: 動物由来の成分が含まれていない
クルエルティフリー: 原料・製品の製造・開発・市場参入の過程で、あらたに動物実験を必要とする手段がとられていない
※ THE LITTLE WHIM では、ブランドはクルエルティフリー、プロダクトはクルエルティフリーブランドの中からヴィーガンのものを選んでいます。しかしブランドによってはヴィーガンではないプロダクトを扱っている場合もあるので注意が必要です。
とはいえそのほかにも、ブランドの理念、使用原料の採取や製造などにおける環境負荷や搾取の背景、原料そのものの環境への影響、パッケージの合理性など、気になるポイントのリストは終わらない。ローカルもしくはスモールブランドから選びたい気持ちもある。もちろん、肌や体、予算に合うかも重要。
自分で得られる情報の範囲でリサーチし、慎重に選んでいるけれど、とはいえ妥協も生まれる。思いつくすべてのチェックボックスが埋まるようなアイテムを見つけるのは、正直言って不可能。
そして私自身のそもそもの話として、コスメが大好きで、主観で考えても以前は買い過ぎだった。多大な反省を経て、注意深くなり、買う量がぐーんと減ったここ2年ほど。持っているものを使い切ることにも集中してきた。
そのなかで、私がここ最近意識しているある条件を、今回の記事のテーマにすることにした。私が特別応援したいと思う2つのポイントである、北米でアジア系、かつ、女性/LGBTQ+ の創業者やオウナーが展開するブランドから、お気に入り & 気になっているものをいくつかまとめたい。
これは、ビューティの世界におけるリプレゼンテーションをより多様にするうえで、私が重視していること。業界のなかで働く人びとにとっても、利用する人びとにとっても。そしてどんなジェンダーやセクシュアリティであれ、メイクアップを実際に使用し楽しいんでいる人たちがつくるビューティの世界をもっと見たい。
しかも、私が見つけたブランドは、特定のカテゴリーである「自分たち」を含むことにのみフォーカスしているのではなく、純粋に「もっと多くの人びと」を考える姿勢を形にしている。決して規模が大きいブランドでなくても実現可能なインクルーシビティを感じる。
とはいえ、繰り返しになるけれど、私自身は、今日取り上げるブランド/アイテムが必ずしも完ぺきだと思っているわけではない。そして、これを読んでくださる方がたにも、気になる点が残る可能性はおおいにあると思う。
たとえばこの写真だけでも、パッケージのプラスチックが目に付く方々はいるのではないかな。
それは、ビューティ界が立ち向かっていくべき課題がたくさんあるという事実の証明なんだろうと思う。これからも利用者は前向きに観察したり対話して、ブランドと寄り添いながらよりよくしていくエネルギーに変えていくことができる。
そう考えたうえで、読んでいただけたらうれしいです。
※ ここで記載している「女性」「LGBTQ+」は、ブランドまたは本人による公表か、メディアでの記述を元に判断しています。
※ ここで登場するブランドは、特筆されている場合を除き、すべてヴィーガン & クルエルティフリーです。
※ 一部、仕事の関係で寄贈されたアイテムが含まれます。しかし、インターネット上で評価することは一切求められていません。
SunnyDays SPF 30 Tinted Sunscreen | Tower 28
ロサンゼルスを拠点とするTower 28は、両親が台湾から移住したアメリカで生まれた女性 Amy Liu が創業。
ブランドのタグラインである “It’s ok to be sensitive”(敏感でもいいじゃない)は、Amy 自身が重度の eczema (湿疹ができる皮膚炎)に悩まされていたことに由来する。
そしてこれは、センシティブな皮膚そのものだけでなく、それによって自分自身の気持ちが敏感になるのを受け入れることも、含んでいるんじゃないかな。
私が使っている SunnyDays SPF 30 Tinted Sunscreen の紫外線保護成分は、ノン・ナノ処方の zinc oxcide(酸化亜鉛)のミネラルサンスクリーン(ノンケミカルサンスクリーン)で、サンゴ礁を傷つけると特定されている成分ではない。(このアイテムだけに紫外線からの保護を頼るにはかなりの量を塗らないといけないので、したに日焼け止めを塗ることが推奨されている。)
ちなみに、フォーミュラにはパーム油とマイクロプラスチックも配合していないそうだ。
敏感肌も含めたすべての肌質が使えることを重視しており、アルコール、香料、ココナッツオイル、鉱物油、グルテンなどといった、肌に反応を起こす可能性がある主要成分を不使用。アメリカの National Eczema Association から認定を受けたのは、ベースメイクプロダクトでは初のことだそう。
ブランドカラーのラベンダー色のパッケージは、50%以上が PCR プラスチック(Post-Consumer Recycled Plastics: 消費者から回収した使用済みプラスチック)でできている。
14色展開はすごく多いとは言えないけれど、かなり明るい/暗いが両側から展開されている。プロダクト名にファンデーションと書かれているとはいえ、薄づきのツヤっぽい仕上がりで、アンダートーンも幅広いので、肌に合う色が見つけやすいのではないかな。
via Tower 28
ここのところすっかり薄づきのベースメイクに落ち着いた私にとって、これはぴったりのプロダクト。ムラを整える程度のカバー力で、肌への負担が少ない。乾燥しがちな肌が潤うフォーミュラで、でもテカテカもしないので、画面を通して仕事する毎日にちょうどいい。
Tower 28 と Amy についてもっと知りたい方は、以下のリンクから
“FAQ” (Tower 28)
”28 Reasons Why with Amy Liu” (Tower 28)
おまけ
ベースメイクでもうひとつ。色付き日焼け止めだけではカバーしきれない目の下のクマ、シミやニキビ跡には、Kosas の Revealer Concealer を使っている。
※ このプロダクトはヴィーガン。Kosas はクルエルティフリーブランドで、かつほとんどの商品がヴィーガンだけれど、リップアイテムのいくつかに赤色色素として昆虫由来のカーマインが含まれるプロダクトがある。
程よいカバー力がありつつ、時間が経ってもかぴかぴになったりヨレたりしないので、信頼している。28色展開。Kosas はマイカとパーム油は認定のあるもののみ使用、マイクロプラスチック不使用を宣言している。
創業者 Sheena Yaitanes は、両親がイランからの移民で、ペルシャ系。
イラン自体はアジア大陸の南西部に位置すると一般的に考えられる。しかしイラン国内民族構成の最大であるペルシャ系民族は、場所や人種や宗教のくくりというよりは、ペルシャ語を話す人びとのこと。なので、アジア系と呼ぶのは適切ではなく今回のリストには含めていない。とはいえイランにルーツを持つ女性によるビジネスは希少なので、おまけとして紹介。
自分の出身である東アジアや隣接する東南アジアだけでなく、中央アジア、西アジア、そして南アジアも含むアジアは、でかい。以前読んだ、Ruby Hamad による “White Tears/Brown Scars: How White Feminism Betrays Women of Color” でも、これについては多く語られていた。特に、南と中央と西と設定されるアジア、そしてペルシャ、アラブ、イスラム、、、自分の頭のなかでいろんな概念がぼんやりとしているなぁと、読み進めながら愕然とした。
今も、深掘りできるほど理解できていないのだけれど、アメリカそして世界での「アジア系」というくくりはあいまいで、雑。このカテゴリー分けそのものに限界を感じることはあるなぁ(じゃあこの記事のテーマはどうなっちゃうのって感じだけれど)、と記しておく。
Skin Spark Blush Balms | Phytosurgence
より具体的に特定されている情報は見つからないけれど、Phytosurgence は、インスタグラムのプロフィールやメディアでのインタビューから、アジア系かつ LGBTQ+ である Jason Lau ともう一人によるインディブランドであることがわかる。拠点はカナダのバンクーバー。
Jason の婚約者であるらしいパートナーの Tom も、ストーリーズのメイクアップ着用例に登場する。
新しい小さなブランドで、現在はアメリカとカナダのみの展開。Jason はとても現実的で地に足のついた理念を持つスモールビジネス経営者のようで、どこか皮肉っぽさを持っている印象。というのは、インタビューにおいて、ブランドを始めたきっかけ、ビューティのサステナビリティに関する思い、クリーンビューティ界隈への疑問、ビジネス拡大の難しさなどについて語っているなかで感じられた。
私が購入したのは、クリームチークブラッシュである Skin Spark Blush Balms から、Smolder というカラー。
ガラス製ジャーに入ったこちら。burnt apricot と描写されるこの色は、少しオレンジ味の入った絶妙なブラウンで、グリーンを含む私の肌の上では、クレイっぽいようなテラコッタっぽいような発色に。ブロンザー兼チークブラッシュの感覚で使える。しっかり色が出るのでほんの少量で充分。スキンケアを重視しており、肌に優しいオイルやバターが含まれているらしく、なめらかで伸びがよい。
多様な肌色に合うよう、鮮やかな発色にフォーカスしつつも、ベースは透明。不透明な白のベースにピグメントを足した配合だと、特に暗い肌色には、グレーやアッシュっぽい発色になってしまうことを考えたうえでの工夫だそう。
拠点であるバンクーバーのボランティア動物保護団体に、売り上げの50%を寄付するプロダクトも発表している。
Phytosurgence についてもっと知りたい方は、以下のリンクから
“FAQ” (Phytosurgence)
“Phytosurgence’s Glittery Cream Shadows Last All Day on my Oily Monolids” (Byrdie)
Moonlit Dream Cream Eyeshadow | Vesca
中国にルーツを持ちトロントをベースとする Carolyn Chen が創業したメイクアップブランドである Vesca 。彼女は、有害とされる14の主要成分を排除したヴィーガン & クルエルティフリーのネイルポリッシュライン Orosa も立ち上げている。(昨年 Carolyn は両ブランドの代表を退いたが、Carolyn 創業時の理念はおおむね貫かれている)。
ブランドの柱には6つの価値があるらしいのだけれど、それらには、多くの人びとの声を聞き入れ、コンセプトから実際のプロダクト作りまでリプレゼンテーションを重視することや、プロダクトの枠を超えて価値を共有しコミュニティを作ることが含まれている。
それらは、まだ比較的新しいブランドゆえ商品数は限られているなかで、驚くほど幅広く巧妙な色展開に表れている。人気プロダクトであるブロンザーは、とってもリッチなカラーがたくさん。
via Vesca
インスタグラムのフィードを見ていても、多様な肌の色の人びとが Vesca のプロダクトを楽しんでいるのがうかがえる。
そしてそれにとどまらず、ブラックおよびそのほかのマイノリティのアーティスト、コンテントクリエイターやモデルを支援するファンドも設立。
via Reset Beauty
多くのアクターたちが一丸となってリプレゼンテーションの拡大を目指す、大切な動きだと思う。
仕事の関係で寄贈された Moonlit Dream Cream Eyeshadow は、最近私が好んでいる one and done(ひとつのアイテムで完成)ルックにちょうどいいプロダクト。
Lyra はローズピンクベース、Carina はブロンズっぽいゴールドベース。指でのせてはっきり発色させることも、ブラシで伸ばして濡れたようなツヤを楽しむこともできる。クリームというよりリキッドのような軽めなテクスチャ。
プラスチックチューブだけれど、乾きにくさや空気に触れない衛生面を考えると、長く最後まで使い切る合理性があるとも思うな。リサイクルプラスチック素材だったらなおいいのかも。
配合されているマイカは、供給元の製造者に書類で確認をとった、エシカルなもののみを使用。タルクも同様の方法で、アスベスト不配合を約束する。グリッターのマイクロプラスチックについては、確認ができない。
【2023年1月追記】
Vescaはブランド閉鎖を発表しました。
Lip Butter Balm | Summer Fridays
スキンケアが人気の Summer Fridays。ロサンゼルスを拠点とするこのブランドの創業者 は Marianna Hewitt と Lauren Gore の2人の女性で、Marianna は母親がベトナムからの移民。Marie Claire のインタビューで、育ったオハイオには、自分に似た見た目の人が周りにいなかったと振り返る。
via Summer Fridays
自分たちのパーソナリティ、バックグラウンド、ライフスタイルなどを公開しながらインフルエンサーとして活躍していた2人が立ち上げた Summer Fridays は、忙しく複雑なライフスタイルにおいて気楽でリラックスしたセルフケアをもたらすことがコンセプト。
このブランドには、使用後の空容器をアメリカ国内であれば回収して利用者に代わってリサイクルするプログラムがある(回収後の具体的なリサイクル方法は明記されていない)。
さすがインターネットに強いインフルエンサーによるブランド、ビジュアルが統一されているのだけれど、リサイクルに関する投稿までまぶしい。。。(小声)
私が愛用しているのは、色付きリップバームである Lip Butter Balm。
こっくりとしたテクスチャが心地よく、Vanilla Beige のカラーが少しだけリップに元気をくれるので、エブリデイアイテムとして活躍中。
via Summer Fridays
Summer Fridays とMarianna についてもっと知りたい方は、以下のリンクから
“About Us” (Summer Fridays)
“My Ethnicity” (Marianna Hewitt)
そしてここから先2つは、いつか欲しいなぁと思っているもの。
Multi Stick | Mango People
ロサンゼルス発の Mango People は、果実や花のピグメントでメイクアップを楽しむ、原料の大部分がオーガニックのインディブランド。
創業者の Sravya は、インドにルーツを持つカナダ出身女性。優しい成分を使いながらも、ブラウンの肌色にしっかり発色するコスメが、周りに見つからなかったそうだ。
それをきっかけに、自身の南アジアのルーツをたどっていくと、先祖は自然のものを多用していたことを知る。そうやって、土や果実、花などから色を得ながら、アユールヴェーダも取り入れつつ、Mango People を作っていった。
現在展開されているのは3商品で、どれもスティック型パッケージに入った固形のプロダクト。2021年にパッケージをアルミ(しかもリサイクル回収された再利用素材)にアップデートし、そしてリフィル(詰め替え)を実現したとか。使い切ったあと、20%オフ価格で中身だけ買うことができる。
創業2年も経っていないくらいなのに、すごい。新しいからこそできることもあるかもしれないけれど、とにかくすごい。
私が目をつけているのは、リップ・チーク・アイと多様に使える Multi Stick。
チョコレートみたいなこっくりした色の Fudge が、オリーブっぽさのある私の肌色に合いそう。ファッションにおいても好きな色なので、なおさらマッチするんじゃないかな。
プロダクト名どおりまさにマルチに活用して、リップ・チーク・アイをすべてこれひとつで仕上げるワントーンルックも楽しめそう。
うっとりする色の数々。すべて果実や花などからできているなんて。今は形状は違えど似た使い道のものが手元にあるので、それが終わったら…。
Mango People とSravya についてもっと知りたい方は、以下のリンクから
“About” (Mango People)
“Meet the 10 BIPOC Brands in Sephora’s 2022 Accelerate Program” (Byrdie)
Major Brow Shaping Wax | Patrick Ta Beauty
本人の名を冠したブランド Patrick Ta Beauty を展開する Patrick は、ロサンゼルスを拠点とするメイクアップアーティスト。ハリウッドの著名人たちを顧客に持ち、雑誌や映画などで活躍する。
ベトナムから移民した両親の子として、サンディエゴで育った Patrick。親からの期待は大きかった。
小さい頃から自分はゲイだとわかっていたけれど、クロゼットのなかにいたと語る。
メイクアップを通して、大胆に輝く自分がいることを見つけた。メイクアップアーティストとして成功した今の Patrick は、自分に自信が持てなかった幼い頃、女性たち — 母親や姉妹、親友たち — が周りにいてくれたことに感謝している。自分が自分でいられる時間を持つことができ、自分の声を得られたと振り返る。ブランドを作りたかった背景には、本人がそう感じられたように、多くの人たちに自信と美しさを見つけて欲しい気持ちがあるそうだ。
私が欲しいのは、Major Brow Shaping Wax という眉用のワックス。
※ このプロダクトはヴィーガン。Patrick Ta はクルエルティフリーブランドだけれど、動物由来の原料が含まれるプロダクトがある。
私の眉は元気がよく(つまりはぼさぼさということ)、最近よく見かけるワックスを使ってみたいと思っているところ。Patrick Ta Beauty は、アジア系を含め多くの人びとが持つ太かったり硬さのある眉毛も考慮したフォーミュラを発表している。
透明タイプしか出していないブランドも多いのだけれど、Patrick Ta Beauty にはダークな毛色の眉でも馴染みやすい ダークブラウンの色付きタイプ、 Tinted もある。
テクニックもないし、エディトリアルなメイクアップをしたいわけでもないのだけれど、ワックスを探しているなかでこれは自分に合いそう。試したいけれど使いこなせるか不安もあり、悩み中。
Patrick Ta Beauty とPatrick についてもっと知りたい方は、以下のリンクから
“About” (Patrick Ta Beauty)
“How Patrick Ta Faced His Fears & Launched A Makeup Brand” (Refinery 28)
コスメを選ぶ際、ブランドや創業者のパーソナルな背景を知るのはとてもおもしろいし、距離が近くなる気がする。
昨年3月に、「コスメから考える、人種のこと — インクルーシブで持続可能な “Beauty for All” ってなんだろう」という記事を書いた。そこでは、アジア系と黒人のビューティブランドは、それぞれをどうとらえているかを考えた。
この記事を書いた当時は知らなかった… 自分たちだけでなく、より多くの人びとのインクルーシビティの実現に情熱をそぞいている、北米のアジア系創業者によるブランド… たくさんあるじゃない!まだメジャーと呼ぶほどではない小さな規模の場合が多く(大きくすることを視野に入れていない可能性もある)、応援したい。
北米のアジア系であり、かつ女性または LGBTQ+ のアイデンティティを持つインターセクションのうえで、北米に住むアジア系女性である私のような利用者に、楽しみと希望だけでなく、社会の構造をビューティのレンズを通して考えるきっかけもくれる。
節度ある購買をしつつ、祝福とお礼とエールの声が出そうになる、そういう気持ちを込めた今回の記事でした。