「コミュニティ、アクセシビリティ、インクルージョンについて考える」と題して書いたその1から、だいぶ時間が経ってしまった…。
その2にあたるこちらでは、私がブルックリン公共図書館 (BPL) とニューヨーク公共図書館 (NYPL) を利用していて見えること、日本語書籍を探すうえでのコツ(と言えるのかな?)や、私が参加している本へのアクセス拡大のためのボランティアなどについてまとめる。
本を借りる、だけじゃない
独立系出版のイベント
これは BPL のなかでも中央図書館と呼ばれる、もっとも大きく所蔵が多い施設。ブルックリンのセントラルパーク的な存在であるプロスペクトパークの、すぐ近く。
今年8月の写真なので、12月の現在にくらべると、ずいぶんと夏らしい装いの人たちが見える。「残暑厳しい」という表現がぴったりくる、とても暑かったこの日、自宅徒歩圏内の近所の館ではなく、中央図書館まで地下鉄で出向いたのには、理由があった。写真に写っているように、建物前の広場で “Small Press Flea 2022” が開催されていたのだ。ちいさな出版社が出店する、マーケット。
courtesy of BOMB Magazine
BOMB Magazine と BPL が共同で主催したこのイベントには、30を超える独立系出版社が参加していた。本と親しむ場所である公共図書館が、地域に根付いた形で独立系出版をサポートし、より多くの人びとがそれに触れる機会を提供する取り組み。
自由な表現を通して、社会活動としての側面も持つ出版を構築し守ろうとする作り手と読み手が集い、とても賑わってた。
n+1 の “Best! Letters from Asian Americans in the Arts” がとても気になった。2020年に始まったパンデミック以降の、アシア系アメリカ人のアーティスト、キュレイター、編集者、執筆者、デザイナーが、政治や社会をとらえた文章を収録しているみたい。今ある積読の目処がある程度ついたら、買いたい一冊。
図書館が提供する催しは、ほかにもたくさん
これは夏定例のちょっと特別な野外イベントの例だけれども、そのほかにも図書館はさまざまな催しを地域に提供する。
その最たるものとして、ニューヨーク市に限らずきっと多くの図書館で実施されていると思うのは、選書、本読み会、ブッククラブと、映画上映会。私は小さい頃、住んでいた神宮前の渋谷区中央図書館で、たくさんの映画を観たなぁ。
前回の記事で書いた、英語とその他の言語を教えるレッスンも、本にまつわる公共施設である図書館が熱心に取り組んできているサービスの一つだろう。それ以外にも、ヨガやエクササイズなどの体を動かす系、コンピュータやレジュメの書き方の講座などキャリア支援系、編み物や絵画など作る系、自転車の直し方や野菜くずでの染めものなど「生活の知恵」系… いろいろな体験を BPL は提供する。
ニューヨーク市の3公共図書館でのイベント情報は以下から。
- ニューヨーク公共図書館 – Events
- ブルックリン公共図書館 – Events & Classes
- クイーンズ公共図書館 – Programs and Activities
図書館による古本販売
記憶の限りだと、私が東京で利用していた公共図書館にはなかった気がするのだけれど、ニューヨーク(アメリカ、と広げていいのかはわからない…)の図書館では、寄付が多かったり、傷みが出て買い替えとなったりなどの理由で余剰になった書籍を、一般に販売する。
図書館蔵書ならではのラミネートやラベル付きで、ある程度の使用感ある状態にはなるけれど、数ドルで購入することができる。または、地域住民から寄付されたものを販売する場合もある。
私のパートナーは、育った家庭は決して裕福ではなく、子どものころ、ぞんぶんに本を買えたわけではまったくなかったそうだ。なので地元クイーンズの公共図書館にはとても馴染みがあるうえに、欲しかった本を図書館の古本販売で見つけ手元に置き何度も読むことができた喜びを、よく憶えていると言う(一方で、あきらかに「図書館販売会で買った」とわかる見た目の本を持つクラスメイトをさげすむ状態も学校には一部あったそうだが…)。
借りられるのは、本だけじゃない
たいていの公共図書館では、書籍、新聞、雑誌、漫画、画集、楽譜、学術文献などさまざまな出版物が、印刷とデジタル両方の形で貸し出される。さらには、探してみると、本以外にもさまざまな貸し出しをしているケースもある。
CD や DVD はきっとほとんどの図書館で用意されていると思うけれども、私が BPL の中央図書館で見かけて驚いたのは、レコードの貸し出し。2022年8月にスタートしたばかり。
おそらくレコード特有の管理が必要だからか、借り出し・返却が可能なのは中央図書館のみだけれど、とてもおもしろいと思った。試聴コーナーにはターンテーブルとヘッドフォンが置かれていて、さながらレコードストアのよう。
そこから気になって、BPL ではほかになにが借りられるか調べてみたら、ボードゲーム、望遠鏡、楽器(打楽器と弦楽器中心)、ミシンと出てきた。レコード同様、貸し出しロケーションなどにそれぞれ条件はある。ボードゲーム貸し出しは、2020年に始まった新しいものだそうだ。
courtesy of Brooklyn Paper
公共図書館から、思った以上にいろいろ借りられるのだなぁ。そんなことを先日、カナダのオンタリオ州に住む友人に話していたら、彼女の利用する公共図書館では Nintendo Switch を貸し出しているとか。わお。
こういったものは、すべての人びとが必ずしも簡単に手に入れられるわけではないので、市民が借りる選択肢が提供されているのは大切なこと。さらに、もし手に入るとしても所有する必要はあるかな?と思うものだったりする。なのでシェアリングという観点からも、いい。
これを読んでいる、ブルックリン図書館利用地域にお住まいの方々、もし興味があったら利用してみて。ほかにも、お住まいの地域で知らなかった貸し出しサービスが実はあるかもしれないので、自分のためにも、近くでなにかを必要としている方のためにも、調べてみる価値はあると思う。
日本語の本を借りよう!
ニューヨーク市の公共図書館には日本語の本が結構ある
TLW のインスタグラムを見てくれる方々はお気づきかもしれないけれど、私は今年、たくさんの日本語書籍を読んでいる。よくわからないけれど、日本の本を読みたい熱が高まっているのだ。NYC に引っ越して9年経つけれども、今年はそのなかでもっとも日本語で読書をした年に違いない。
ニューヨーク市やその近郊は日本の人が少なくなく、日系の大手書店や大手古本書店があるので、世界中の在外日本語読者のなかではラッキーな方だと思う。それでも、日本語書籍のドル定価は日本円定価の2-3倍するので、私にとっては贅沢品。なので、その1で書いた多言語コミュニティを擁するニューヨーク市の公共図書館で、日本語の本が借りられるのはとてもありがたい!
私は BPL と NYPL の蔵書から日本語書籍を探す。絵本をはじめとした子ども向け書籍や、料理本などがとても多い印象だが、私が実際に好んでよく読む小説やノンフィクションなども多様に見つかる。基本的に、たくさんの人びとが興味を持つであろう人気の本が中心で、大手出版社のものが多いかな。
探し方のコツ!?
ここからは、日本語書籍をデータベースから検索するうえでの、めちゃくちゃニッチな情報になります…。でも、ニューヨーク市の図書館を利用する方々をはじめ、海外の図書館で日本語書籍を探す日本語読者も汎用できるかもしれない(し、できないかもしれない)。
興味のない方は、次の項目へスキップしてください。
BPL と NYPL はどちらも、ウェブサイトとアプリがある。アプリは図書館カードを持ち歩かずとも自分の会員情報を読み込むバーコードがあるし、自分の借り出し状況が管理できたりと便利だけれど、検索するのはブラウザからウェブサイトを使うの方が、アプリより絶対にオススメ。
1. 図書館全体で日本語の蔵書リストを閲覧し、そのなかから読みたいものを探す
「あれを読みたい!」となにか目当てがあるわけではなくとも、ふらりと立ち寄って本棚を見ながら読みたいものを探すのって、図書館の楽しみ(だと私は思っている)。でも日本語書籍所蔵は各館限られているので、それをインターネットでやるのが、これ。
<BPLの場合> 2022年12月現在
- Borrow → Books と進み、カタログ検索の画面に移る
- 画面右側バーにある “Language” の項目で”日本 | Japanese”を選択し、かつ、 同じく右側バーにある “Tags” の項目で “Japanese language materials” を選択する
- 日本語書籍だけにフィルターがかかった状態で表示される
ポイント: “Language” フィルターだけだと、他言語訳の日本書籍も引っかかってしまいます。
そこからさらに、人気順、タイトル/著者名のアルファベット昇順、新着順などでソートできる。また、右側バーでさらにフィルターをかけることもできる。
たとえば上のこの画面は、日本語書籍のなかで、人気順 (Most Popular) でソートし、大人向け (Adults) でフィルターをかけたもの。
<NYPL の場合> 2022年12月現在
2023年8月追記: NYPL のカタログ画面がアップデートされ、この方法が実践できなくなってしまいました…。
なにも入力せずとも全体に言語でフィルターをかけられる BPL に対して、NYPL の検索画面は、なにかキーワードを入れないとフィルター機能がかけられない(つまり、空白ではダメということ)。そこで、私が使っている裏技(?)を公開。
- Books/Music/Movies → Catalog と進み、カタログ検索の画面に移る
- “Keyword” と書かれた右にある入力欄に、”JPN” と入力する
- 下の項目にある “Language” で、”Japanese” を選択する
ポイント: NYPL の日本語書籍の管理分類コードには JPN が含まれているので、これを日本語書籍にもっとも汎用性が高いキーワードとして利用し検索するのです。
そこからさらにフィルターなどを使って絞ることが可能。NYPL の検索システムはジャンルなどフィルターがとても多い。
2. 特定の読みたい書籍や著者を、ワードで特定検索する
きっともっとも確かなのは、ISBN を使うこと。特定の書籍を探している場合は、インターネット上(出版元のウェブサイトなど)で ISBN はすぐに見つかるので、それで図書館データベースで検索をかけるのがオススメ。
ワードで検索したい場合は?ニューヨーク市は英語が基本なので、日本語の書籍タイトルや著者はアルファベットで表記される。だけれども… 自分の思った通りにアルファベットで表記されているとは限らないし、記号や数字なども含まれる場合、それがややこしさを生むことも。
たとえばこちら… これは BPL の画面から。
松田青子さんの「持続可能な魂の利用」という書籍は、”Jizoku kanō na tamashii no riyō” となる。私は “Jizoku kanou na tamashii no riyou” と検索したので、引っかからなかったのだ。長音符号というのかしら?入力が面倒なうえに、「可能」を「かのう」ではなく「かのー」で探すとかそもそもわからないし、でもこれをどう検索すればいいの…。
私が見つけた方法は…。
- 著者名は “Aoko Matsuda” で、のばす音が入っていないので、そっちを狙う(ただし松田青子さんは英訳も出版されているので、前述のフィルターをしていない場合、英語での書籍も含んだ結果が出ます)
- 思い切って日本語のタイトルそのままで検索する
だまされたと思って試してみて欲しい!私の経験上、NYPL と BPL、どちらのデータベースにおいても、書籍タイトルや著者などの基本情報は日本語でも登録されているようで、日本語入力でも結構引っかかる(すべてではないかもしれないけれど)。
どの方法でも、読みたい本が見つかったらインターネットで予約し、最寄りの館でピックアップが可能です。
蔵書リクエストしよう!
何パターンか試したけれど、どうしても見つからない!その際は、図書館で蔵書として購入・追加してもらえるよう、リクエストができる。私は今のところ成功例はないけれど…、ニューヨーク市の図書館の日本語書籍購買の機会はきっとそんなに多くないと思うので、忘れた頃に追加されてないかなーと、楽観的かつ気長に待っている。
2023年3月追記:
1年以上前にリクエストした日本語書籍… なんとなく思い出して検索してみたら、データベース上に現れた!まだ借り出し可能な蔵書に追加はされていないけれど、どうやら手続きが進んでいる模様。日本語というマイノリティ言語書籍リクエストも聞いて対応してくれるのだな(私のリクエストの結果かは確認できないけれども)、と嬉しかったと同時に、すっかり忘れていた感もあったので、蔵書リクエストしたものは自分で備忘用メモをとっておき確認をするべきだと思った。せっかく取り寄せてもらうのだから。
ニューヨーク市の3公共図書館での蔵書リクエストは以下から。
- ニューヨーク公共図書館 – 各ブランチに問い合わせ
- ブルックリン公共図書館 – Request to Purchase Form
- クイーンズ公共図書館 – Purchase Request(要ログイン)
日本語読者が日本語の本を借り出すことだけでも、需要があることの表明になる。蔵書リクエストは、それをさらに強く伝えられる。「私たち、ここにいますよ!」とアピールできる機会。
ニューヨークの子どもの、本へのアクセスを広げる活動
さてさて、その1・その2と、だいぶ長く書きました。ニューヨーク市の図書館は、いろいろ問題を多く抱えるその他の公共サービスに比べると信頼も愛着も生まれ、応援したくなるから… 生き残った数少ないオアシスといった感じ。
とはいえ、その1の最後で記したように、完ぺきということはないと思う。私はだいたいにおいて満足している(それ自体はよくないことだとは思わないが)とはいえ、公共サービスである以上、もっとひろく見なくてはいけないよなぁ。(より)よくしていくことができる分野は、きっとまだまだたくさんある。
しかしながら、私に「見える」ことには限界がある。たとえば、蔵書の「広さ」については、言語などの多様性の観点からその1で触れたけれど、いわゆる一般書しか読まない私には、蔵書の「深さ」についてはよくわからない。建築やエネルギー資源などといった環境面も、ウェブサイトなどで公開されている内容を額面通りに読むことしかできない。そして、しっかり理解しているわけではないことは書けないので、今回触れていない。
それを前提としたうえで最後に、活動を通してすこしばかり現状を知り、ゆえに書きたいことに、ブロンクスやブルックリンに多いと言われている「本の砂漠」がある。とりわけ、本へのアクセスが限られる子どもが多くいるのが問題視されている。
貧困層や低所得層を含めた非富裕層にとって、平均$20近いという児童書は、購入したくても高級品になってしまう。パンデミックや物価高がそれに拍車をかける。とはいえ、公共図書館がその隙間を容易に埋められるわけでもない実態があるそうだ。こういった家庭ほど、シングルペアレントだったり両親や保護者が働く時間が長くなりがちである。しかしながら、非富裕層が多い地域では公共図書館はまばらになってしまい、子どもが一人で行ける距離に位置しないケースも多い。こうやって、子どもの「本の砂漠」がつくられる。
このような話を私が聞いたのは、ボランティアとして参加している Brooklyn Book Bodega の活動家たちからだ。
この団体は、NYC の「本の砂漠」を生きる0-18歳の子どもたちの、幅広い本に触れる機会と、本の所有を実現すべく活動している。コミュニティベースの運動を尊重し、子どもたちに選択の機会をもたらし、読むためのサポートを提供することも重視している。
Brooklyn Book Bodega のミッションはこちらで、2022年のインパクトレポートはこちらで、それぞれ閲覧できる。
活動内容は、いたってシンプルだ(とはいえ、中心となっている活動家たちはとても忙しく、情熱を感じる)。ブルックリンにあるオフィス兼倉庫には、地域住民、出版社、書店などから寄付された児童書籍が届く。状態をチェックし、対象年齢・ジャンル・言語などで分類、そして棚に整理する。
一方、地域団体や教育機関から、数百冊単位で欲しい書籍のおおまかなリクエストが送られてくるので、それに合わせて分類棚から選書し、梱包して引き渡す。また、地域イベントなどにも本を持っていき、参加者に提供する。
本棚数段分ほど、日本語の本もある。ニューヨークに住む日本語読者の子どもたちの手にわたり読まれるのを、想像してしまう。
ちなみに、子ども向けの活動をする団体なのだけれども、大人向けの書籍もかなりの数送られてくる。それに関しても、定期的に無料譲渡会を行い、そしてボランティアには持ち帰らせてくれる。力仕事も含めた作業のあと、ゆっくり選ばせてくれて、最高のご褒美…!
私個人のボランティアとしては、住んでいる地域の BPL でも、単発でイベントのサポートなど何度か参加したことがある。日本語が母国語であり同時に英語読者でもある自分に、なにかできることがあったらなおいいなぁ、と思っている。
ニューヨーク市の公共図書館と、そこからすこし派生して、人びとの本へのアクセスを広げる活動について、2回にわたって書いてきました。長い!最後まで読んでいただきありがとうございました。
TLW の更新は滞っているのだけれど、インスタグラムではもう少し活発なので、こういったテーマに興味がある方は、もしよかったらそちらもご覧ください。