アメリカに住んで10年。日本の目線から言うといわゆる「海外コスメ」(適切な解釈ではちっともないのだけど、欧米のブランドを指すことが多いはず)をおもにつかってきた。けれど最近、いただいたのをきっかけに、ヴィーガンでクルエルティフリーの韓国コスメと日本のコスメを活用している。それがとても楽しい。なので、それについて書きたい。
私はコスメやビューティのいち利用者に過ぎず、専門的だったり業界に近いような知識は持っていない — そのうえで、現在はアメリカ在住の日本出身者として、コスメを通して社会的な目線から考えたことも、後半に折り込んでいきたい。特定のコスメのあれこれに興味がない方々は、後半(←リンクを貼ってます)だけ読んでいただいても。お付き合いいただければうれしいです。
ちなみに、スウォッチ写真は登場しません(あまりに得意でないのと、先日料理中に派手に油がはねて、手と腕に火傷痕が残っているため)。もし気になるアイテムがあったら、とても上手にスウォッチの画像を撮っている方々はインターネット上にたくさんいるので、検索してみてください。
アイシャドウ —「発色がよい」を考える
韓国コスメは、私が日本に住んでいた10年前、いやそのもっと前から人気があった印象なので、日本からこれを読んでいる方々にとっては、韓国コスメの楽しさを最近知った私の書くことなんぞ、「なにを今さら」感がすごいと思う。
アメリカでは、KポップやKドラマの人気と相まってか、ここ数年でKビューティへの支持が強まっており、見かける機会も買える場所も増えている。(ちなみに私は、韓国のエンターテイメントにほとんどまったくと言っていいほど触れてきていない。なので、そのあたりのことに疎い分、先入観がほぼない読みものになると思っていただけたら… 。)
そんななか、1年とすこし前くらいかな、仕事(NYCのファッション業界にいます)で出向いたイベントでいただいたこのアイシャドウが、私を数年(十数年?)遅れで、韓国コスメに興味を持たせたきっかけ。
メズマライジング モーメント コレクション パレット | Dear Dahlia
Dear Dahlia(ディアダリア)というブランドのアイシャドウ、メズマライジング モーメント コレクション パレット。私が持っている色みは、セレスティアルグロー。
私の肌色にとても合う色合い。とはいえ、ほかにもこういった暖色寄りのベージュ〜ブラウンのカラーコンビネーションのパレットは持っている。なんだけれども、これが特にとてもいいな、と思ったポイントは、色と粉の具合。
アメリカで、メイクアップ 、特にカラーものを選ぶ際、「発色がよい」 (英語で “pigmented”) かどうかは、そこかしこで聞くくらい重要なポイント。発色がよいかどうかでプロダクトの価値を判断する傾向すら感じるくらい。
たしかに、日本語だと「よい」vs.「よくない」「悪い」になるくらいなのだから、そりゃ発色がよい方が好ましいように感じる。
けれども、アメリカの、たとえばこの商品のようにパウダーアイシャドウの場合、元の粉の存在が強固で、そのうえに色 (pigment) をつけているのかな?だから発色がいいのかな?と感じるアイテムに出くわすことがある。
だから、ぱーん!と発色するのだけれど、どうも粉っぽいというかチョークっぽいというか、そんな感触のものがアメリカには多い気がする。(すこし極端に煽っている感は自覚していて、あくまでステレオタイプ的印象であり、アメリカにそうでないものももちろんあるし、逆も然り。)(そしてこの「発色がよい」に関しては、また終わりの方で戻ってきます。)
それが、以前ほど若々しくなくなってきたためか、細かいシワや乾燥が気になり始めた私のまぶた周りには、なんだかうまくなじまなくなってきていた。というか、なじまなくなってきていたことに、このアイシャドウをつかって気づいた。
だってこれ、いい意味で、「発色がよくない」んだもの — すくなくとも、アメリカで散見されるタイプにくらべて。やさしい発色、薄づき、抜け感、透け感…… そういう言葉をそういえば、韓国コスメや日本のコスメを扱う日本のビューティ系ユーチューバーが言うのを聞いたことがある!多分これがそれか!と。やわらかく、ふんわり、肌にのる。
まぶた全体にのせてもカサカサに見えない左上のミルクティーベージュと、ペンタイプだと乾燥でするする引きにくくなってきたアイラインにぴったりの右下のニュートラルなダークブラウンは、どちらも底見え。
ちなみに Dear Dahlia はクルエルティフリー、全商品ヴィーガンで、オーガニック成分も多く配合するメイクアップブランドみたい。
ブラーフィニッシュアイシャドウ | Dinto
「発色がよくない」マットだけで構成されたパレットも欲しいなぁ、なんて思っていた。ら、韓国系アメリカ人の友人が韓国に行くと言うので、なにも知らない韓国コスメの情報を調べに調べて、こちらを頼んだ。(ちなみにこの友人は韓国語を話すので、動物実験の有無とヴィーガンかどうかを、今回登場する韓国コスメブランドに韓国語で問い合わせてくれた。)
Dinto(ディーント)の、ブラーフィニッシュアイシャドウ。私がお願いしたカラーは、ジェーン・オースティン。
それぞれどことなくくすみを含んだ、ウォームやニュートラルなベージュやピンクベージュやブラウンが6色。私のテクニックでは限界があるため、絶妙と呼ぶか微妙と呼ぶか定かにできない程度に、色をつかい分けている。
Dear Dahlia にくらべると粉がしっとりしていて、くすみ感も含めた見たままの色合いがやさしく出る。商品名にブラーの言葉が入っているように、ぼかしがかかったようななめらかな仕上がりなので、実はチークにつかってもきれい。手の平におさまるコンパクトサイズ、かつミニマルなパッケージデザインなのもあり、先日の一泊出張の際には、アイシャドウだけでなくチークブラッシュとして活用し、これだけで済んだのはポイント高かった!あ、あとノーズコントゥアもできた。
Dinto もクルエルティフリーで、全商品ヴィーガン。私のパレットの色名がジェーン・オースティンであるように、文学からインスピレーションを受けており、どのアイテムのカラーも(女性)作家の名前。買ってきてくれた友人が「ヴィーガンで文学インスポって、あなたにぴったりのブランドじゃん!」と言っていて、照れ。
アイデザイナー | Snidel Beauty
愛用している「発色がよくない」パレットがもうひとつ、こちらは日本のもの。
Snidel Beauty(スナイデル・ビューティ)のアイデザイナー。私のは05番。
こちらは、NYC から一時帰国していた日本出身の友人からのお誕生日プレゼント。(え、ス、スナイデル…… ってあのスナイデル?どう考えても私が着なさそう・似合わなそうな、あのスナイデル?てかスナイデルってコスメあったの?)と、もらった瞬間は正直かなり動揺した。
でも見てみると、コスメの分野は、ファッションと比較するとだいぶすっきりしたブランディングのよう。色合いも、スナイデルのファッションから(勝手に)連想する「きれいめ」「甘め」とか「モテ」を感じさせず、ベーシックなものとすこしとがった印象のものがラインナップされている感じ。… 抱いていたイメージと違った!
そしてエシカルなポイントとしては、Snidel Beauty はクルエルティフリーブランドで、ほとんどの商品がヴィーガンだそう。「フリー成分」(不配合の成分)が各商品の明示されており、そこに動物由来成分が当たるかどうかもウェブサイトで確認ができる。
もらったアイシャドウパレットは、たぶん友人が私のことを考えて選んでくれた、どちらかといえばとがった方のカラースキーム。そしてつかってみると、オレンジやピンクははっきりして見えるけれど、ほどよく「発色がよくない」、かつ粉がとてもしっとりしていて、きれい!マットに見えるけれど実はパール入りっていうパウダーアイシャドウ、実はあまり好きではなかったのだけれども、そこはかとないパールはこのやわらかい風合いの仕上がりにはアリで、心地よく裏切られた。
ちなみにこれも、アイシャドウとしてだけでなく、チークブラッシュにもつかっている。
いいわ!ってことばかり書くのもアレなので、個人的にイマイチだなと思った点も正直にあげると、右下のグリッター?ラメ?系のパウダーは好きではなかった。前述の、アメリカに多い粉っぽいチョークっぽい感触のアイシャドウ(繰り返しですが、これは完全ステレオタイプ)に似ていて、私のまぶたには向かなかったかな。
グリッターというかアイシャドウトッパーは、長年愛用&リピート買いしているアメリカのブランドのアイテムがあるので、ここで番外編。
Urban Decay(アーバン・ディケイ)の 24/7 Moondust Eyeshadow の Space Cowboy と、Stila(スティラ)の Trifecta Metallica Lip, Eye, & Cheek Stick の Kitten。前者はシルバーグリッター、後者は多色グリッターで、どちらもキラキラというより、濡れたようなツヤが出る。
特に Urban Decay の Space Cowboy は、ピントをぼかして撮るとわかる、この濡れツヤの視覚効果。
Urban Decay も Stila もクルエルティフリーで、多くの商品がヴィーガンであることがわかりやすく明記されている。
かつ、どちらも、ベージュっぽい色がベースになっており、単体でもなにかと合わせてもつかいやすく万能。そしてクリームタイプで、しっかり蓋をすれば乾くこともなく長くつかえる&つかい切りやすい。韓国コスメでも気になるグリッターはあった(後述)のだけれど、この2アイテムで事足りているではないか!と自分に言い聞かせた。
リップティント — とにかく驚いた
アメリカで出まわっているリップティントには、「落ちないリップ = 超絶マットで乾燥必須」なケースが多い。唇の表面がぎゅーーーっとなって、こんなにあったっけ?というくらい縦ジワが強調されるやつ。
なので、韓国コスメのリップティントをつかって、いたく驚いた。すごい。韓国コスメのリップティントをつかっている方々にとっては本当に、「なにを今さら」なのだろうけれども。
ハグベルベットティント | Unleashia
Unleashia(アンリシア)のハグベルベットティント。色は、薄いコーラルピンクが 3番 シェア、深い赤が 6番 アワー。
ホイップされたムースのような軽い質感で、するすると唇につく感じ。すぐに乾いてマットな質感になるけれど、カサカサやカピカピはなし。めちゃくちゃ長時間続くとか、まったく色移りしない、とは言えないけれど、持続力はある。
Unleashia はクルエルティフリーで全商品ヴィーガンだから、と、先ほどの Dinto のアイシャドウを買ってきてくれたお友達が、実はお土産として選んでくれた。グリッターで知られているブランドだそうで、グリッターぺディアというアイシャドウが人気みたい。ヴィーガンでクルエルティフリーの韓国グリッターアイシャドウに興味があり、私のように手持ちで事足りているではないか!と自分に言い聞かせる状況ではない方、いいかも。
デューティント | Amuse
もうひとつリップティント。こちらは自分で目星をつけて、お願いして買ってきてもらったもので、マットではなくツヤのあるタイプ。
Amuse(アミューズ)のデューティント、私の色は10番 朝イチジク。
リップティント=マットだと思っていたのに、なんとツヤタイプのティントがあるなんて。水っぽい塗り心地、つけたてはうるっとした仕上がりで、時間が経つにつれて次第にさらさらになっていく感じ。そして、色落ちしない… いや落ちるけど、落ち方がきれい。窮屈さがないのに、ストローやカップにほとんど色移りしなくて、食事をしても色が残っていて、ちょっとこわいくらい。体や唇にいいのかはわからないけれど、でも落ちないリップを求めているなら、このつかい心地でこの落ちなさの方がいい。
今回取り上げた韓国コスメブランドのなかでおそらくもっとも人気も知名度もありそうな Amuse は、クルエルティフリーで、ほぼすべての商品がヴィーガンのよう。多くの人から支持を受けるブランドがそうなのって、いいな。
いろいろ考えちゃったこと
ここまで、最近手に入れて楽しさを知った韓国コスメのアイテムについて書いてきたけれど、ここからは、アメリカに住む私が韓国コスメを知っていく過程で考えたことを。
おもに肌の色の多様性に関する内容で、思考をめぐらせていくうちに、アイシャドウの章で触れた「発色がよい」にも、一周まわってつながっていく。
いろいろ考えちゃったこと 1: 「ホワイトキャスト」と「トーンアップ」
via Cosmopolitan & Olive Young
アメリカで人気の韓国コスメアイテムの1つに、日焼け止めがあるように思う。
インスタグラムで英語のハッシュタグ #koreansunscreen は、1.5万ほどある(2023年5月現在)
ではどうして、韓国の日焼け止めがアメリカで注目されているのか。その理由は、アメリカと韓国の日焼け止めの根本的な違いにあるようだ。
アメリカの日焼け止めは OTC drug 扱い。OTC drug とは “over-the-counter drug”、処方箋なしで買える医薬品のことで、FDA(食品医薬品局)が管轄する。FDA が日焼け止め効果を認可した成分を配合した製品のみが日焼け止めとして販売でき、現在17種類の有効成分が認可済みだそう。
参考資料: CFR – Code of Federal Regulations Title 21 (FDA)
管理が厳しいのは一見よさそうだけれども、 FDA の日焼け止め成分認可はあまり活発に更新されておらず(最終更新は1999年だとか!)、下記参考資料の The Atlantic 記事内の書き方を引用するならば、使用できる成分は「少ないうえに古臭い」というのが現状なよう。
一方、韓国(や、その他多くのアジア諸国)では、日焼け止めは機能性化粧品の部類としての扱いが一般的であり、認可基準も異なる。そして、新しい成分やテクノロジーも積極的かつ迅速に採用するため、日焼け止め製品に使用が認められている有効成分の種類が多く、つかい心地のよさも進歩する。EU諸国やオーストラリアも同様だそうだ。
参考資料:
Why You Need to Reconsider That Sunscreen You’re Using (Healthline)
You’re Not Allowed to Have the Best Sunscreens in the World (The Atlantic)
つまりは、きわめて簡潔に平たくして言うと、アメリカの日焼け止めはほかと比較して遅れているのだ。
そして韓国は、「美白」(トキシックな表現で避けたいのだけれど、あえてそのまま使用しています)や、日焼けによる老化現象の防止へのアテンションが強い国の一つ。
参考資料:
Tracing the Root of Koreans’ “White Skin Obsession” (The Korea Herald)
The Science of Korean Beauty Products and Whiteness (Psychology Today)
Skin Lightening and Beauty in Four Asian Cultures (Association for Consumer Research)
韓国の、肌を焼かない(「白く」保つ)文化の強さが、より優れた成分の利用をうながし、日常的につかいやすい使用感やテクスチャーの日焼け止めを豊富にする…。なので最近では、インスタグラムや TikTok などで韓国の日焼け止めがバズって、アメリカ国内では認可されていない製品を韓国から購入する利用者がアメリカで増えているそう。
だけれども… 私個人は、動物実験がされているものや動物由来成分が配合されたものと、サンゴ礁を傷つける可能性が高いと特に指定される日焼け止め成分は避けたいので、古典的とされる、紫外線散乱剤であるミネラル成分(ノンケミカル成分とも呼ばれる)の日焼け止め、つまりは酸化チタンと酸化亜鉛(のみ)が配合されたものを選んでいる。
とまぁ、ここまで日焼け止めの説明だけでずいぶん長くなってしまったのだけれど、やっと、いろいろ考えちゃったことの1つ目である、「ホワイトキャスト」と「トーンアップ」について。
「日焼け止めを見直しました」でくわしく書いたのだけれども、ミネラル由来の紫外線散乱剤を有効成分とする日焼け止めは、白い粉である酸化チタンと酸化亜鉛の性質上どうしても、肌のうえで白く残る、つまりは白浮きをしやすいものが多い。
その白浮きのことをアメリカでは「ホワイトキャスト」(white cast) と呼び、ない方がいいものとされる。肌の色が明るめの人であっても、日焼け止めの色が実際の肌の色より白く残るのを嫌う傾向があるし、そして肌の色が暗くなればなるほど、それはますます避けたい。
via Cosmopolitan
2020年、マーク・ザッカーバーグ のこの写真は、たくさんミームになるほど話題に。日焼け止めで真っ白の顔は、アメリカでは笑いを誘い、注目された — ミネラルサンスクリーンで肌をしっかり保護するのはいいことなのだろうけれども。
しかしながら、この写真が撮られたのは強い反発を受けながらも彼が広大な土地を購入したハワイであることも、インターネットでかっこうのネタになった原因に関係している可能性がゼロとは言えないだろう。
一方で韓国では、「トーンアップ」効果があるものとして売られている日焼け止めがたくさんあることに気づく。「トーンアップ」という言葉はアメリカでは一般的ではないので、初耳に近かった。あれ、もしかして「トーンアップ」って、「ホワイトキャスト」のことなのでは…?韓国の人気コスメショップであるオリーブ・ヤングで人気上位の「トーンアップ日焼け止め」を試しに見てみると、やはり「トーンアップ」効果を謳う日焼け止めには、酸化チタンと酸化亜鉛を主成分としたものが圧倒的に多いことが見える。
つまりは、「ホワイトキャスト」も「トーンアップ」も紙一重というか…。ものは言いようというか…。なんだかモヤる。
どうして引っかかるのかを、自分なりに掘り下げてみる。
まず第一に、いっそ白浮きでもいいから肌を白く見せたいほどの、韓国の「白肌」信仰の強さを感じさせる。先ほど長々と書いたように、韓国では日焼け止めは機能性化粧品扱いで、成分の開発も使用感のよさも進んでいる。にもかかわらず、古典的な成分である酸化チタンと酸化亜鉛の白浮きに関してはあまり違いが見られないことを、不思議に思う。むしろそれを、「トーンアップ」という概念で売り続ける。
くわえて、白浮きが「トーンアップ」の範囲内、つまりは比較的自然な浮きで済む肌色の人はいるだろうけれども、どう見ても浮き過ぎというレベルに白浮きする肌色の人もいるだろう。後者は、その日焼け止めをつかえないかもしれない。
ミネラル成分の日焼け止めは比較的肌にやさしいと考えられ、サンゴ礁白色化や海洋生態系への影響の懸念も低く、より多くの人びとが使えるようになった方がよさそうなのに、「トーンアップ」圏外の肌の色を排除しかねる。肌の明るさによる排他性がそこにはあり、しかも、私の主観では、「トーンアップ」圏内はきわめて明るい肌を持つ人たちのみ入れるように見える。きわめて高い排他性ではないかな。
(今回私は日焼け止めのみに注目しているけれど、ほかにも韓国コスメのさまざまな分野において、「トーンアップ」の言葉は見られる。そしてそれは日本のビューティでも多く目につくことも、記しておく。)
真っ白のペンキを塗ったかのように白浮きした白人のマーク・ザッカーバーグの「ホワイトキャスト」を「笑う」アメリカと、白浮きを「トーンアップ」として「美しくなる」効果と考える韓国。その背景にあることは、それぞれ複雑だろう。
まずアメリカ。肌の色による差別が根深いことは、周知の事実だと思う。しかし同時に、(本来肌の色が明るい人が)日焼けしていることは、(農作業や野外での労働ではなく)バケーションで暖かい場所に行けたりビーチに旅行できる「豊かさ」の象徴になるソシオ・エコノミックな階級主義も存在する、矛盾した状況がある。そしてそれは、美の基準にもなり得る。おそらくその理由から、ブロンザーやセルフタン製品も豊富で人気だ。
しかし、ザッカーバーグの一件だけを見てみると… 彼は世界でトップ10に入ったこともある、膨大な資産を持つビリオネアだ。100万筆を超える署名を集めるほど反発を受けながらも、ハワイのカウアイ島の土地買い占めを進め、先住民・地元民たちと法廷で争った。アメリカで「豊かさ」の象徴になる日焼けをし放題な大金持ちの「ホワイトキャスト」が嘲笑の的になる現象は、私の頭脳では整理が追いつかないほど、何重にも皮肉だ。
他方で、韓国ではより伝統的*な、白い肌こそ美しく、かつ高階級的でもあるような、そういった認識の傾向が強いようだ。(* この傾向にはさまざまな経緯やバックグラウンドがあり一筋縄ではないようだけれど、このテーマだけで論文や論考がいくつも見つかるほど複雑な内容なので、ここでは「伝統的」と記述するにとどめます。)
私は、おそらくどちらかといえば韓国の感覚に近い日本で育ち、今はアメリカで暮らしている。日常的に使用し肌を保護する日焼け止めを探すうえで、とても混乱してしまった。どちらの考えを支持するわけでも、どちらが正しいかと論じたいわけでもない — ただ、日焼け止めひとつとってもこんなにも異なる美やそのほかの考え方がそれぞれにあり、しかもどちらもこんがらがっていることに、なんだか圧倒されてしまうのだ。
いろいろ考えちゃったこと 2: 肌色の多様性にあわせた色展開は、今後に期待… ?
via Kosas & Lenaige
1の内容にいくぶん重複する内容になってしまう — なぜなら、これも肌の色に関することだから。
韓国コスメが手元に増えるにつれ、ベースメイクアップにも興味を持った。そこで、人気アイテムを中心に調べてみたのだけれども、結論から言うと、混乱が多くて見送った。韓国のベースメイクアップアイテムの色展開には、とてつもなく限りがあるからだ。
例をあげてみる。前述のオリーブ・ヤングで上位ランクインしている、韓国で長年大人気コスメブランドの一つである Laneige(ラネージュ)のネオファンデーション マットは、8色展開。
via Laneige
Laneige はクルエルティフリーではない。通常、TLW では動物実験をしているブランドを扱わないのだけれど、これは比較用の例としてあえて選んでいる。というのも、Laneige は韓国最大の化粧品会社である Amore Pacific(アモーレ・パシフィック)社の傘下にあるブランドで、8色展開というのは、一般的な韓国コスメブランドに比べると圧倒的に多い部類に入る例なのだ。
しかし、実際の色展開のバランスを見てみると、8色は圧倒的に明るいシェードに寄っていると言える。イエローベースとピンクベースのアンダートーンの分布は見られるが、シェードの範囲はきわめて狭い。
Laneige のインターナショナル版でこのファンデーションを見ていると、下のモデルが登場する。
via Lenaige
違和感があり、もう一度色展開の写真に戻ってみた。このモデルは、このファンデーションの8色のうち、一体どのシェードをつかっているのだろうか……………。この …………… には、たくさんの疑問と反発を込めている。言語化するとしたら、展開していない色のモデルを掲載しているように見えて仕方がないし、もしそうならば、そのマーケティングには暴力性を感じてしまう。
一方アメリカの人気ブランド Kosas の、米国ドル価格は Laneige と近い、Revealer Skin-Improving Foundation は、36色展開。
via Kosas
Kosas は色展開の大きさやその分布のバランスのよさで特に知られているブランドではない。それでも、シェード帯を4つに分けて、それぞれに対応する色を9色ずつ分布するように展開している姿勢が見える。
私は今回は、公平ではない、韓国コスメに優位性を与えたような形で2ブランドを選んだ。韓国コスメにしては色展開が多いブランドと、アメリカでは平均的な色展開をしているブランド。それでも、8色 対 36色は圧倒的な差であり、その分布もかなり異なる。
オリーブ・ヤングのサイト上でほかにも上位ランクインしているファンデーションをいくつか見てみた。3色展開が散見され、多い場合でも5色程度。見つかるのは、イエローベースとピンクベースのアンダートーンは用意されているが、シェードは似通った明るさに限定された商品ばかりだった。
(「トーンアップ」と同様に、色展開の限定性も、日本のビューティにおいて思うことではある。ただ、この記事はおもに韓国コスメに関するものであるのと、韓国と日本を雑に一緒くたにするのもきっと違うと思うので、深堀りはしないでおく。)
アメリカで韓国コスメに注目が集まっているスピードに、アメリカで韓国コスメを買うチャネルが追い付けていないように感じる。けれども、たとえば私が先ほどから触れている韓国発のオリーブ・ヤングは、アメリカにも発送しているので、アメリカに住む人びとにとって、韓国コスメへの玄関口の役割を果たし得る。とすると、そこで買えるファンデーションの色の限定性は、韓国コスメを買う人を選んでしまってはいないか。
韓国で見られる肌の色も多様なはずだが、多様さの「度合い」は、アメリカほどではないのかもしれない。しかしながら、私が見た韓国コスメの3色、5色展開や、多くても8色展開の状況は、東アジア系ルーツの肌を持つ私ですら、正直混乱するほどの限定性だと思った。私でそうなのだから、買える人ってすごく少ないんじゃないかな。そして、自分の肌の色が見つからなかった人たちは、そこには自分の居場所はないと感じるのではないかな。
2年以上前になるけれども、私は、「コスメから考える、人種のこと — インクルーシブで持続可能な “Beauty for All” ってなんだろう」という記事を書いた。
この記事の目的は、黒人とアジア系、どちらもアメリカで周縁化されたマイノリティとして社会的抑圧を受けるなかで、この2つのマイノリティ間でときに生じる不調和や違和感について、コスメの観点から考えてみることだった。ビューティのレンズを通した、レイス(人種)やカラー(肌の色)の話。
そのフォローアップもふくめて、約1年後、「ヴィーガン & クルエルティフリー コスメ — 北米のアジア系かつ女性/LGBTQ+ によるブランド —」を書いた。
ここでは、ビューティの世界におけるリプレゼンテーションをより多様にするってどういうことか、アジア系アメリカ人によるブランドを通して考えたかった。それは業界のなかで働く人びとにとっても、利用する人びとにとっても。そしてジェンダーやセクシュアリティも限定することなく、メイクアップを実際に使用したり楽しいんでいる人たちがつくるビューティの世界をもっと見たい気持ちからだった。探してみると、特定のカテゴリーである「自分たち」を含むことにのみフォーカスしているのではなく、純粋に「もっと多くの人びと」を考える姿勢を形にしているブランドがいくつも見つかった。
どちらもそれなりに長さのある記事で、ここでまとめることは不可能なので、興味があったらぜひそれぞれ読んでいただきたいのだけれども、これらを書くことを経て私が至った、化粧品における肌の色の多様性について思うことは、こんな感じ。
存在するすべてのブランドが、50色とかそれ以上、シェードもアンダートーンも多様に対応する色展開をする必要はきっとないし、それはおそらく持続可能ではない。特定マイノリティによる小規模なブランドである場合は特に、自分たちのコミュニティの特化を優先する可能性もある。とはいえ、より多くの人びとのことを考える最大限の努力をするべきでは、ある。そしてむずかしい場合は、自ブランドではカバーしきれないエリアを得意とするブランドに積極的につなげていくことで、より多くの人びとが自分に合ったビューティを楽しむことができるのではないか。ブランド間や業界内でのアライシップみたいなのが、あったらいいのにな、と。
なのでたとえば、ファンデーションを8色展開している Laneige は韓国では弱小ブランドではまったくないと思うので、きっともっと展開する努力ができるはず。もしそれが困難なようであれば、韓国発の大手小売店であるオリーブ・ヤングのような大きな販売チャネルが、既存取扱いブランドでは足りていない、より幅広い肌色の展開に強みを持つブランドをもっと呼び込み、それをパブリックにも積極的に伝えていくことなどが、できるのではないかな。そうやって、よりたくさんの人びとが — 韓国コスメの楽しい世界がもともと好きな人たちも、最近知った人たちも、これから知っていく人たちも — 一緒にいられる場所づくりが必要なのではないかな、と思う。というかこれは、業界のことはわからない私が利用者の目線から抱く、希望。
いろいろ考えちゃったことの1つ目の日焼け止め白浮きと、2つ目である肌色展開の限定性を、1つの方法で解決する動きが、アメリカでは最近多く見られる。粉状であるミネラル系紫外線散乱剤成分に色をくわえて、薄付きのスキンティントとして多様な色を展開するのだ。
「ヴィーガン & クルエルティフリー コスメ — 北米のアジア系かつ女性/LGBTQ+ によるブランド —」にも登場した Tower 28 のSunnyDays SPF 30 Tinted Sunscreen はまさにそのタイプで、酸化亜鉛ベースのミネラルサンスクリーンに色をつけてから配合し、14色を展開。
via Tower 28
ライトな色づきなので、厳格にならず遊びをもって色選びができる。それをふまえた14色は、明るめから暗めまで広く分布した展開。まだ新しい独立系ブランドとして持続可能な範囲での、かなりの努力だと察する。ちなみに創業者 Amy Liu は、LA在住台湾系アメリカ人女性だ。
いろいろ考えちゃったこと 3: 東アジアのブランドを遠く、アジア系アメリカンのブランドを近く感じることがある — そして、見えていない場所もある
個人的に、東アジア系アメリカ人がつくった Tower 28 のティンテッド・サンスクリーンを、発売以来愛用している。そこには、とてもパーソナルなうえにとても感覚的で、うまく言葉にできない想いがある。
私は日本で生まれ育ち、そして場所も文化も歴史も違うとはいえ韓国にも近しさを感じる。なのに、ビューティの肌の色の限定性を見ると、なんだか遠く感じてしまう。
一方で、アメリカで東アジア系移民として暮らす期間が長くなるうちに、Amy のような東アジア系アメリカ人の肌の色の考え方と、つくり出す世界に、おおきな安心を得るようになった。アメリカかぶれ(肌のことだけに)とも言えるのかな…。といってもそのかぶれは、アメリカの方がいいじゃん!というものではない。アメリカにも差別や偏見や排他性は存在し、私はそこで周縁化されることがある。私とは似ていなかったり同じ環境にはいなさそうな人びとが、周縁化されるのも、見知る。
そういう経験を通して、私たちの肌はときに痛みを伴うようなかぶれを積み重ねてきたからこそ、自分の姿がそこに見えて、居場所がある感覚って、ビューティを楽しむうえでほんとうに大切で。そして自分の存在を見てくれていて、さらに、自分じゃない人びとにも居場所が見つかる想いを形にしようとするブランドと出合うと、救われたような気持ちになるんだよな。
そう考えながら、かなり遡って最初の方に書いた、アメリカのアイシャドウはぱーん!と発色するけれども粉っぽいという私のちいさな不満をふと思い出すと、自己矛盾があることに気づき、それは自己批判につながった。
私にはじゅうぶん過ぎるほどの発色のために、テクスチャーがトレードオフになっているように感じていたけれど、肌の色によっては、特にたとえば私より暗い肌色の人にとっては、しっかり発色することは重要なのかもしれない。いろんな肌色に対応するため、アメリカには「発色がよい」アイシャドウが多いのかもしれない。それに気づきにくいのは、想像ができていなかったのは、私の視座が低いからかもしれない。
私の視座… 個人の視点はどうしたって定点的で、視界だって360度じゃないし、目の前に雲や霧が広がることもあるし、メガネやコンタクトの力を借りないと見えない場所ができる場合もある。
それでも、アメリカ、日本、韓国、どこであれ、自分を含めよりたくさんの人々が居場所を持てる、そういうビューティの世界が欲しいと願うのであれば、ムーブメントをつくったり応援すると同時に、自分自身に凝り固まった考えがあるかもしれないことも認識しなくてはな、と気づく。その認識を高めることによって、見えるものも変わっていくのではないかな。
ビューティ関連の記事を読みたいという声を送ってくれる方々がいるから、韓国コスメが楽しい!と思ったから、書きたかったこの記事が、とんでもなく長くなった。もうすぐ終わりです — ここまで読んでくださった方々には、お時間とエネルギーをくださったことに、感謝です。
特に後半部分は、うーーんうーーんと悩みながら書いた。こんなに長いけれども、それでも、肌の色に関することに絞ったため、省いたこともたくさん。ジェンダーやスキン・ポジティビティなどの観点から触れたかったこともあったので、それはまたいつか書けたらいいな。
韓国コスメが楽しい!でも、楽しめない部分も、私にはあった。きっとほかの人たちにも、韓国コスメに限らずビューティのいろんなところに、そう思う範囲は多分あって、そしてその範囲は人によってはとても大きいかもしれない。そんなことを、希望をたくさんこめたクリティカルでながーいつぶやきとして、ここに残した感覚です。