インスタグラムで、私は #oootd (old outfit of the day) のハッシュタグを頻繁に使って、地球環境や倫理を意識したファッションの話をする。個人の解釈として込めている気持ちは、「ヴィンテージや古着、お下がりやトレードしたもの、そして長年愛用している思い出の詰まったもの、そういった『古い』ものでファッションを楽しむこと」。あえてソーシャルメディアで公開しているのは、ちっぽけとはいえ私なりにできるアクティビズムだから。
このハッシュタグを作り出したのは、イギリスのサステナブルでエシカルなファッションを提唱している、Venetia La Manna。
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いわゆるサステナブル、エシカルと言われているファッションブランドにはまだ、価格、展開、手に入れやすさなどにおいて、多くの人が取り入れやすくなるにはいくつか課題があるのを耳にする。
その中で、 #oootd は「誰にでも」取り入れやすい要素があると、私は気持ちのどこかで感じていた。
特に、今持っているものを長く愛用する、という点においては、買う時点で何度も何年も着るものを選ぶことに加え、破れ、ほつれ、穴あき、ボタン落ちなどがあっても、時間がある際に修繕をすることでかなえやすいと思う。
しかし、古着・ヴィンテージや中古品を買うということにおいては、「誰にでも」アクセスがあるという考え方に限界もあることを、近年 #oootd 的なファッションの楽しみ方がメインストリーム化していくにつれて感じるようになった。
今回のテーマは、日本ではあまり語られていない側面かもしれないけれど、アメリカやヨーロッパでは論じられる機会が増え始めている。今までに読んだアメリカとイギリスの記事を通して、私の思うところをまとめるので、一緒に考えてもらえたら嬉しい。
参考資料 (Reference):
“Thrift Shopping Ethics 101” (Nylon)
“Is Depop Being Gentrified? Sellers and Users Weigh in on the Debate” (Dazed)
“Why It’s Unethical To Resell Thrifted Items On Depop” (Study Breaks)
“Inside the Secret World of Vintage Fashion Scouting” (Business of Fashion)
“Gentrifying Goodwill: Can Columbia Students Thrift Shop Ethically?” (Columbia Spectator)
“Second-hand Shopping: Checking Privilege” (WILD Magazine)
“Middle Class Students Must Attend to our Own Privilege When Charity Shopping” (Varsity)
“Gentrification at the Goodwill: Not Even New York’s Thrift Stores Are for the Poor” (Observer)
“The Gentrification of Thrifting” (Sara Tabio: Medium)
“Don’t Buy Plus Size Clothing at Thrift Shops If You’re Just Going To Cut Them” (The Affinity Magazine)
“Buying Plus-Size Clothes at Thrift Stores is a Pain in the A**” (Misty Fritz: Medium)
中古市場の拡大
アメリカではスリフトストア (thrift store)、イギリスではチャリティショップ (charity shop) と呼ばれる、多くの場合は非営利団体によって運営されるお店がある。生活者や地域ビジネスが、不要になった衣料や日用品を寄付として持ち込み、それを販売することであげた利益は、それぞれの団体が掲げる慈善活動に使われる(必ずしも全てがそうではないが、この仕組みの場合が多い)。お店としてのディスプレイや整列はどちらかと言えば味気なく、ひたすら商品が並ぶ、簡素な場所である。
スリフトストアで中古品を購入することは、アメリカでは口語的に thrifting(スリフティング)と言われる。thrifting の動きが、特にファッションの世界では、サステナビリティを提唱し、既存のファッションビジネスの環境や倫理の問題についてオープンに議論するインフルエンサーを中心に、主に若い世代で、メインストリームというかトレンディになってしばらく経つ。
例えばインスタグラムには、#thriftedfashion というハッシュタグに114万を超える投稿がある。(2020年8月現在)
新品を買わなくても自分の好きなスタイルを楽しめる、というポジティブなエネルギーとメッセージを感じる。
YouTube でも、thrift with me(一緒に thrifting しましょう!)や、thrift haul(thrifting の購入品公開)のビデオは溢れている。
上から下:
bestdressed, Jenny Mustard, Wear I Live, Bianca Gan
中古品を買うのは、カラーやサイズが豊富な新品の商品が溢れるお店に行くのとは違うエクスペリエンス。似合うものを探すにはちょっとしたコツがいる。そして、自分に合うお店を見つけられるかどうかもポイントになる。thrifting が支持を集めるにつれて、そういった情報やインスピレーションを得られる動画の人気は高まる。
さらには、彼らは必ずしもスリフトストアに限定してショッピングをしているわけではない。購入品には、いわゆる古着屋やビンテージショップ、そして、thredUP(不要になった服を買い取り販売するサイト)や Depop(個人で販売できるアプリで、日本のメルカリやラクマの感覚)といったオンライン再販市場で手に入れたものも登場する(これらは一般的に、スリフトストアに比べ価格が高い)。thrifting の言葉は、Urban Dictionary(言葉の現代的・実践的な解釈を公開するカジュアルなオンライン辞書)では以下のように定義されている。
When one visits several different thrift shops, second-hand shops, and vintage clothing stores in the hopes of buying several items of cheap and unusual clothing and other items. One usually does this with friends.
安く個性的なアイテムを複数手に入れることを期待し、スリフトストア、中古品販売店、ヴィンテージショップなどをいくつも周ること。友達と一緒に出向くことが多い。
“thrifting” (Urban Dictionary)
THE LITTLE WHIM 訳
thrift という言葉は本来、節約や倹約を意味するが、thrifting は今では経済的側面だけが目的ではない、ファッションの楽しみ方の一つとして新しいカルチャーとなっているのがわかる。
先述の thredUP はアメリカ最大のオンラインファッション再販市場と言われている。彼らのレポートによると、ファッションの中古市場は大きな成長を続けており、2024年までに再販市場(薄い緑)とスリフトストア・寄付(濃い緑)をあわせると640億ドルにまで達する予測だとか。その中でも、再販市場の伸びの大きさは注目に値する(のちほどもう一度触れます)。
そしてその傾向は世代に関わらず伸びているが、市場を担っているのは主に倫理的購買に自己を投影する傾向が強いと言われているZ世代(24歳まで)であるというリサーチも公開している。(例え中流以上の経済環境で育ち有名大学に通っていたとしても、特に学費が驚異的に高いアメリカでは、ファッションに充てる予算を抑えたい若い学生は古着に惹かれるのかもしれない。さらに、若さゆえファッションの冒険を楽しむ場合が多いという点も、Z世代が中古市場に流れる理由の一つのように感じる。)
・・・と、これまでは、#oootd が光を注ぐ、サステナブルでエシカルな点を意識した新しいファッションのムーブメントの部分に焦点を当ててきた。
さて、では、ここからは影の部分。とはいえ、この記事は決して #oootd を否定したいわけではない。何ごとにもいい点とそうでない点が同時に存在する、ということのリマインダーといった感じ。最後には、どうしたら #oootd を真に楽しむことができるか、私の考えも記す。
スリフトストアの富裕化
煩雑で、決しておしゃれとは言えない場所であるスリフトストアは、かつては、どこか恥ずかしさや後ろめたさといったネガティブな要素を含めるものであった。thrifting は、「お金がない」「経済的にほかの場所では買えない」というイメージを連想させがちであった。
スリフトストアは、多くの低所得者が利用できる場所だったし、今もそう機能する(べきである)。新品を買う余裕がない人たち、中には、一般的に低価格と言われているファストファッションすら手が届きにくい人たちにも、買い物の場所を提供する。
スリフトストアに寄付された洋服はカテゴリー別に分けられ、Tシャツはいくら、セーターはいくら、ジーンズはいくら、コートはいくら、と、大部分は一定の価格表に沿って値付けされラックに並べられていく。その値段は、地域やお店によって差はあると思うけれど、ニューヨークに住む私の肌感では、Tシャツなら数ドル、コートでも20 – 30ドルくらいといったところだろうか。
それが、だ。昨今の thrifting ブームにより、低所得層に限らず様々な客層がスリフトストアに訪れるようになり、そして大量に商品が買われていくようになった。いくら非営利の団体が多いとはいえ、ここにも需要と供給のバランスがもたらす価格の変化が起きていると言われている。つまりは、需要アップ→販売価格アップだ。
これはもちろん、各運営団体が慈善活動に充てる金額が増えることにつながる(プラス、アメリカの大手非営利団体には、本部のあり方についてさまざまな議論がある)が、スリフトストアしか選択肢がない客層にとっては、望ましいことではない。所得の限られた人(経済的に取り残されている層)は、以前より手が届きにくくなったスリフトストアから必然的に押しのけられ始めている – 環境負荷を減らし、非倫理的なファッションビジネスをボイコットし、個性的なアイテムを探すthrifting を求めて、ほかの場所でも購入できる経済力のある人(経済的に特権のある層)が、 スリフトストアにやってくることによって。
特に今は、先ほど触れた Depop のように自由に誰でもファッションを売ることができるオンラインマーケットも人気が高い。スリフトストアに行き時間をかけてラックを見て回らなくても、キュレートされたアイテムを選びやすいことが背景にある。スリフトショップで大量に買い付けし、 Depop で販売することをフルタイムビジネスとしている個人も増えているよう。そして、再販市場がスリフトストアや寄付を超える規模になるという予測もあったように、Depop の人気が高まるにつれ、このプラットフォームにおける価格は上昇傾向にあるようだ。もちろん、販売者の時間と労力が加算されるのは理解の範囲だが、個人の利益目的でスリフトショップに訪れる人が増え販売価格は釣り上がり、中古市場が経済的に余裕のある層に向けたものになっていくことを問題視する声もある。
この状況は総じて、gentrification of thrifting(thrifting の富裕化)と呼ばれている。gentrification はよく、特にニューヨークのような大都市で、地価が上がり続け、比較的裕福な層がどんどん中心部から周辺の新しい地域に広がっていき、それに伴い広い範囲がどんどん富裕化されていく社会的現象をさす際に使われる。本来多くの人に手が届きやすかったスペースの富裕化が、今、スリフトストアで起きているということだ。(もっと踏み込むと、土地の gentrification により富裕層が流れ込むことにより、本来は低所得層中心であったエリアにあるスリフトストアの gentirification が起きるという現象もある。)
As the second-hand sector seeks to capitalise on its commercial success, it is beginning to alienate the very communities it initially intended to serve.
中古市場はその商業的成功をもとに資本化しようとしているため、本来サービスを提供することを意図していたコミュニティそのものを疎外し始めている。
“Middle Class Students Must Attend to our Own Privilege When Charity Shopping“
(Varsity)
THE LITTLE WHIM 訳
サイズ多様性への弊害
サステナブル、エシカルなファッションブランドは確実に増えている中、課題の一つとして価格に加えて挙げられるのをよく目にするのは、サイズ・インクルーシビティだ。まだ小さなブランドである場合も多く、サイズ展開が充分ではないことが多いのが現状。
その点、中古品は一般的に幅広い商品があり、体が小さい人も大きい人も、中間サイズほどではなくても運さえよければフィットするものを見つけるチャンスのある市場のはずだ。
しかし、thrifting がメインストリーム化すると同時に、必ずしも自分の体に合う合わないだけでなく、ファッションスタイルの好みやトレンドによってサイズを選ぶ客層が増える。
先ほど紹介した thrifting をよく取り上げる人気 YouTube 動画には、作り替えることを前提で中古品を買う例も多い。よく見かけるのは、生地や柄などどこか好きな部分はあるけれど、シルエットやサイズが合わないのでウエストや腕回り、肩などを詰めるアイデア。小さい→大きいにするのは難しいけれど、大きい→小さいには手を加えやすいので、圧倒的に後者が多い印象。
これは、新しい服を(特に環境・倫理的に好ましくないブランドから)買うより、中古品を活用して欲しいものに作り替えよう、という点ではとてもポジティブである。(ここで挙げた bestdressed のように、一部の thrifting インフルエンサーが、サステナビリティを語りつつ、ほかのビデオでサステナブル・エシカルとは言えないファストファッションブランドとスポンサーシップを結ぶ矛盾から生まれている混乱もあるのだけど、それはまた機会があったら・・・。)一方で、サイズ的に幅広い選択肢がある人(サイズ多様性において特権のある層)が、サイズに制限があり探しにくい人(サイズ多様性において取り残されている層)のものを奪っているという見方もある。
特にこれは、経済的に豊かでない + サイズの選択肢に限りがある という2つの要素が交差する層にはなおさら大きな困難を与える。例えば、あるプラスサイズの人が失業していたとする。ある日、面接のチャンスを得て、それに着るためのある程度プロフェッショナルなスーツやドレスシャツを探しにスリフトストアに行く。ところが、オーバーサイズで着る前提で、もしくは作り替える目的でプラスサイズ衣料が売れてしまっては、本当に必要としているこの人が買えるものはかなり狭まってしまう。
Next time you are at Goodwill and see an XXL dress you want to cut into a crop top and skirt combo, remember that you are taking clothing away that can go to someone who actually needs it.
次にスリフトストアに行った際、XXLサイズのドレスを見つけてクロップトップとスカートのツーピースに作り替えようかな、と思った時、その行動はそのドレスを本当に必要としている人から奪っているということを思い出して。
“Don’t Buy Plus Size Clothing at Thrift Shops If You’re Just Going To Cut Them“
(The Affinity Magazine)
THE LITTLE WHIM 訳
#oootd で気をつけたいこと
今回取り上げた #oootd や thrifting の問題は、富裕化とサイズ多様性に関わること。#oootd も thrifting も、悪いことではない。この世に服はあり余っている。ただし、メインストリーム化することで生まれる副産物的な問題を無視してはいけない、ということに気づかされる。それはどちらも、特権のある層が、取り残された層への配慮をすることで防ぐことができる。
サステナブルでエシカルなファッション
↓
環境や倫理への配慮の欠けるブランドのボイコット
↓
サステナブルでエシカルなブランドの購入 or 中古品の購入
という、理解しやすい図式だけでファッションの抱える問題全体を解決しようとする姿勢が、かえって複雑になってきている状況の背景にあるのかな。
従来のファッションより安価で、数をたくさん買うことができたファストファッションを中心とした市場に向けていた熱量を、そのまま中古市場に注いでしまう行動は、問題の本質を取り逃がしている。結局大量消費をする姿勢が変わっていなかったら、真にサステナブルとは言えない。環境や倫理を意識し、ほかの人のことを考える「責任がともなった、節度ある購買」を、中古市場においても実現する必要がある。
配慮が欠けていると、特権のある層が中古市場を買い占め価格を釣り上げ、商品の市場バランスを乱し、結局取り残される層は生まれる。彼らが、中古の次の価格帯である、ファストファッションなど環境や倫理を考えると悩ましいが安価なブランドを買うことに、非間接的につながるかもしれない。つまり、特権のある層は中古品を買うことで望ましくないファッションを避けられるが、結果として他の層をそこに送ってしまうことになりかねないということ – 本末転倒だ。
私は個人的には、古着屋やヴィンテージショップ、スリフトストアも利用するけれど、stooping やコミュニティ型のプラットフォーム、あとは友人同士など、個人間で交換や売買をする方法を積極的にとるようにしている。
(今回の記事では一般生活者が thrifting を通して起こしうる市場の問題を取り上げたけれど、厳密には古着屋やヴィンテージショップは伝統的に、もっと大きな規模で、中古市場に影響を与えているセクターでもあるよね。今回はそこまでは触れられなかったけれど・・・。)
経済的にも社会的にも、そして多様性においても特権のある層は、中古品以外にも選択肢があるという特権を行使する機会を、時にもうけることが重要だとも感じる。
グリーンウォッシングの恐れや、単純に好きなものが見つからないなど、踏み切れない理由がある場合は仕方がない。充分にリサーチし、可能な際は予算内で応援できるサステナブル、エシカルなブランドへ「買い物は投票」のマインドセットで投資する – これは、#oootd やボイコットからさらに一歩踏み出した、できる人に与えられた選択・行動なのではないかと、考えるようになった。
#oootd は、私はこれからも様々な視点から取り組んでいきたい。今すでに持っているものと、今この世に存在するものを、最大限に活用することには大賛成だ。ただ、サステナブル、エシカルと考えた時に、サプライチェーンや製造の現場のことだけでなく、自分がお店に行った時に周りにいる人やコミュニティのことも考えるべきであることを、忘れないでおきたい。
最後に、あまり品のある表現ではないので日本語訳は載せないけれど、Nylon の “Thrift Shopping Ethics 101” の記事にあった一言を借りてしめます。
“No shame in jumping on a stellar find, just don’t be an a[**]hole.“