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少し前に公開した記事「モノへの愛着は、そこに宿るものへの愛着だから」を書いたあと、本題ではないあることが心に残った。デジタルではなくモノとして書籍に触れ合っていたことを振り返りながら、10代の頃、「雑誌のビジュアルを切り抜いてコラージュ作りに没頭」したことを思い出したのだ。
金銭的限りや、現実的に必要かどうかという目線から、いくら「好きだな」と思っても、欲しいものすべてを手に入れるわけではない(人がほとんど)だろう。中学生・高校生だった私は特に、手に入れるものは限られているのに対して、「好きだな」がアンバランスに多かった。まるでそのギャップを埋めるかのように、雑誌から好きなものを切り抜き、コラージュを作ることを楽しんでいた。友人同士でをそれを見せ合ってあーだーこーだ展開していくおしゃべりも、その楽しみの一貫だった。
記事を書きながら当時を思い出し、ただ懐かしいだけでなく、大人になった今もインスタグラムや Notion に気になるものを残しているのは似た感覚だと気づく。その感じを、友人同士で共有する部分まで、再現したくなった。
Top image: Collage made by COOKIEHEAD
Left to right: Chopova Lowena, Jess Meanly, Rave Review, OhSevenDays, and La Réunion Studio
オススメするむずかしさ
THE LITTLE WHIM に最も多い問い合わせの一つ… 「サステナブルなファッションブランドのオススメをおしえてください!」という内容。
好きなブランドは、ぜひ応援の意味を込めてシェアしたい。けれど、サステナブルでエシカルで、、、と考える上で、いわゆるグレーゾーンというか、モヤモヤが残ることがあるのも事実。それは私だけでなく、きっと多くの人が感じているように。
原料調達・製造・流通・販売・その後を通したサプライチェーンにおける倫理や環境負荷、企業としての社会的方針など、ぜんぶが見えるわけじゃないし、たとえ見えたとしても、完璧って見つけにくい。スタイルやサイズ、価格などにも納得できなければ意味がないので、自分の環境を考慮した上で、妥協をしつつ選ぶこともある。
なので、不特定多数の誰かにサステナブルやエシカルという観点でオススメするのって、自分の想像や能力の範囲を遥かに超える責任のいることだというのを、日々痛感する。
そして THE LITTLE WHIM は、とても小さいにも関わらず、ありがたいことに世界の様々な地域からアクセスがある。ゆえに、私がアメリカ東海岸のニューヨークから発信するものが、多くの方々の手に入りやすいわけではないケースも多々ある。自分が遠くから購入することで付加的に生じる輸送を気にかける方も、いるだろう。
「古い」を「新しい」に変えるファッション
これらを踏まえた上で、サステナブルファッションのオススメ記事リクエストに応えるべく、私が気になっているファッションブランドを、今回はあるひとつの視点に注目して特集する。
その視点とは、デッドストック生地など余剰となっている素材の活用や、ヴィンテージや古着のリメイク。
先述のように、この素材はエシカル?この製造は本当にサステナブル?というのは議論が多い。どこか優れた要素があれば、ほかのどこかにそうでない側面もあって、意見が分かれやすい。その中で、デッドストックや古着のような、要は「すでに存在するもの」を新しく生まれ変わらせるファッションは、もちろんそれだけで完璧なわけではないけれど、THE LITTLE WHIM において重視したい考え方に沿う。私がインスタグラム上で展開している #oootd (old outfit of the day)、古いものを楽しむファッションのコンセプトは、大切にしたいからだ。
今回は、「すでに存在するもの」を活用するサステナブルブランド、しかも最先端の素材開発や画期的なテクノロジーといった革新性より、「古さを活用するファッションを楽しむ」ことを感じさせてくれるワクドキを持つものにエールを送りたい。
ちなみに今回登場するブランドは、「好きだな」「いつか欲しいな」とときめきながら保存していたものに過ぎず、私は実際に購入したことはない。ゆえにレビューではないので、インスピレーションや、生まれ変わるファッションのワクドキを共有する目的で読んでもらえたら嬉しいです。そう、友達がせっせと作っていた「好きだな」の詰まったコラージュをのぞき見する感じで… 。
1. La Réunion Studio
https://www.lareunionstudio.com/
ニューヨーク(アメリカ)
ニューヨークはブルックリンのスタジオで、ローカルに入手するデッドストック生地をパッチワークしたアイテムを展開するブランド、La Réunion Studio。
作っているのは、ナイジェリア系アメリカ人である Sarah Nsikak。色鮮やかなアフリカ文化、特に植民地時代後のアフリカに影響を受けている。取り戻された美、それを実現するべく一緒になることや常にそこにあるべきだった場所に自己を呼び戻すことなど、インスピレーションは自身のバックグラウンドから来ている、彼女独自のもの。
参考記事: “About La Réunion Studio” (La Réunion Studio)
さらに特筆すべきは、シグネチャーアイテムであるマキシドレスはオーダーが入ってから製作するシステムであること。購入者は、自分の好きなカラースキームや柄を伝えてそれに合わせて作ってもらえる。Sarah はアートセラピーで修士号を持つというので、それも生かしているのかな。サイズに関しても、身長や体型に合わせてある程度調整してもらえるそう。
私がこのブランドを知った当初はドレス1型しかなかったのだけど、最近はジャケットやパンツもあるようだ。
ブランドのコンセプトが魅力的な上に、ドレスのスタイルがタイプ。そして今の私にとってのホームであるブルックリンを拠点としているのもあり、実はこのマキシドレスは「好きだな」が「欲しい」になっている。自分にとって落ち着くカラーであるベージュやブラウンをベースに、ボルドーなどのウォームカラーを足すか、グリーンを入れて涼しげにするか… 決めかねる!という楽しい悩みを抱えながら、イメージを練っているところ。
2. Chopova Lowena
https://chopovalowena.com/
ロンドン(イギリス)
アメリカ生まれでブルガリアにルーツを持つEmma Chopova と、イギリス出身の Laura Lowena による Chopova Lowena。
Emma は、ブルガリア人の両親の元、アメリカ社会の中でアメリカ人として育つ中で、自分のルーツをかえって強く意識していたそうだ。フォークロアのスタイルは彼女のデザインにおいて基幹となっている。イギリス育ちの Laura は、子ども服を中心にトラディショナルなイギリスの服作りに大きく影響を受けてきた。2人はロンドンのセントマーチンズで出会い、それぞれハンドクラフトに関心を持っていたことで意気投合し、ブランドは誕生した。
参考:
“Meet Chopova Lowena, the English-Bulgarian Label All the Street Style Stars Are Wearing” (W Magazine)
“This English-Bulgarian Brand Is Making Fantastical Traditional Dress” (Vogue)
コレクションブランドなのですべてがデッドストックや再利用の生地なわけではないけれど、各シーズンの核となるアイテムに、素材のリサイクルやアップサイクルのコンセプトは多く潜んでいる。
眠っていたマテリアルを活用し、アトリエスタイルの手作業で作られる彼女たちの服は、わざわざ持続可能性という言葉を用いなくても、フォーカスはサステナビリティに自然と寄っていると言える。それぞれが伝統を重んじ、昔からあるものを自分たちならではの形にした彼女たちのファッションは、今雑誌やソーシャルメディアにて、多くのスターたちが身に纏っている。そうそう、先日話題になった Vogue US 12月号の Harry Styles の特集でも、Chopova Lowena のスカートは登場する(動物性であるレザーのベルトが付属しているので写真そのものは掲載しないけれど、ここで見られます)。
3. Rentrayage
https://rentrayage.com/
ニューヨーク(アメリカ)
ニューヨークシティとブルックリンにて、一つ一つを手作業で作る Rentrayage。ブランド名はフランス語で「修繕する、縫い直す」。「すべてをまた作り直す」という意味もあるそう。古いもの、ヴィンテージ、デッドストックに新しい生命を吹き込むことがブランドのコアになっている。
ブランド創始者である Erin Beatty は、「コンセプトを形にするべくデザインすることは、創造性の名の下に無駄を作り出す」ことが不可欠である現状の「根本からしてサステナブルではない」仕組みへの拒絶として、Rentrayage のプロジェクトを始めたそう。すでに存在するものや捨てられてしまうものを、もう一度想像し、もう一度活性化し、美と価値を生み出す。
参考記事: “About Rentrayage” (Rengrayage)
同ブランドのサステナビリティのページには、小さなブランドながら、小さなブランドとしてできることが、綴られている。たとえば、そもそもそのままではゴミになっていたかもしれない素材・原料を使用している上に、製造の過程で使われなかった一部は、ニューヨークの余剰生地回収・リサイクルプロジェクトを進める団体 Fabscrap に送っている。
特定の領域に特化し、そしてスケールがマイクロビジネスであるゆえ、第三者評価基幹や実績レポートのシステムに適応できないことも書いている。それでも、周りとの会話を積極的に進めながら、小さなアントレプレナーとして成長するとともに、似たビジョンを共有するもっと小さな革新家たちを活気づける役割を果たしていきたいとも。
4. Jess Meany
https://jessmeany.com/
カリフォルニア(アメリカ)
ブランド名であるオーナーの Jess Meany は、2019年にこのブランドを始めるまで12年間、テキスタイル開発の仕事をしていた。その中で、すでにこの世にある生地をもっと愛したいと思い、自らブランドを立ち上げた。
彼女はアメリカ中のデッドストックやヴィンテージ、もしくは時代遅れだったり忘れ去られた生地を集める。
参考記事: “Our Story” (Jess Meany)
リラックスしたシルエットのキルティングジャケットがメインのアイテムで、ほとんどが一点ものか数量限定。カスタムオーダーも受け付けている。
日本の半纏を彷彿とさせる、どこかダサさのある懐かしいスタイル。生地の組み合わせ方がかわいいだけでなく、パッチワークのパターンも柄やカラーに合わせてそれぞれ異なって、選ぶのが楽しそう。カリフォルニアの気候だと活躍度高そうな、軽めの上着!実はすごく欲しいんだけど、ニューヨークだと着られる時期が限られるかなぁ。。。
5. Rave Review
https://www.rave-review.com
ストックホルム(スウェーデン)
2018年にローンチした Rave Review が活用する「すでに存在するもの」は、ファッション業界内の余剰ではない。「家の中にすでに存在するもの」から服を作る。
Livia Schück と Josephine Bergqvist が、絨毯やカーテン、ベッドシーツや布団カバーなどをリサイクルショップから集めて、そこから作るハイエンドファッションを構想したのが始まり。人気ブランドとなった今は、スウェーデン国内の生地回収業者と協業して、コレクションに合わせた特定の「家にある系」中古生地をソースしている。
参考記事: “Rave Review Is Proving Sustainable Fashion Can Be Cool” (Teen Vogue)
とはいえ、やはり注文して生地を製造するのではなく余剰を活用するので、ブランド規模が成長している中、すべてのアイテムを同じにするのは不可能だ。そこが、今新しいフェーズを迎えているハイエイドファッションの世界でもウケているようだ。サステナブルでないファッションはクールではない = サステナブルであるゆえに一つ一つのアイテムが全く同じではないことはクールだ、という図式が成立する時代になっていると、Teen Vogue の記事は分析している。
リサイクルショップのような場所を活用する古着ファッションは若い世代を中心に人気だが、Rave Review はその「宝探し」「おばあちゃんのお下がり」的要素だけではない誇りも当然ある。彼らのアイテムには、デザイナーファッションとしての服の構造やデザインがある。古いが新しい、これからの時代のサステナブルなハイエンドってこうなっていくのかな、と予感させる。
6. OhSevenDays
https://ohsevendays.com/
イスタンブール(トルコ)
Megan Mummery による OhSevenDays は、スローファッションを提唱する。
イスタンブールに移り住んだカナダ生まれオーストラリア人の Megan が、ブランド立ち上げ時に大きな混乱を経験したことが、今の彼女のものづくりにたどり着くきっかけだったそう。必要な生地を購入し、サンプルを複数回作成し、それを商品にする… 小さな存在であった Megan には、限られた予算の中でそれは容易なことではなかった。
その一方で、イスタンブール内の大手工場では大量の生地や素材が使われないまま廃棄されていくのも目にした。そこにつながりを持たせるべく、彼女は、日の目を見なかった素材で自分の洋服をじっくり作る OhSevenDays のスタイルを確立したそうだ。
参考記事:
“About OhSevenDays” (OhSevenDays)
“Sustainable Sourcing” (OhSevenDays)
ウェブサイト上では、スタジオで働く4人の縫製責任者・担当者たちを、彼らのストーリーとともに公開している。誰が私たちの服を作ったかを見せてくれる – 今まだ、ファッション業界で大きく欠けている要素だ。
7. Maison Cléo
https://maisoncleo.com/
リール(フランス)
デザインとブランディングの生みの親である Marie Dewet と、実は彼女の親で縫製師でもある Cléo Dewet の母娘デュオによる、Maison Cléo。
素材はすべてフランス国内のクチュールハウスやデザイナーのスタジオ、工場からの余剰を利用し、製造は手作業。オーダーベースの数量限定の生産で、毎水曜日に、ウェブサイトで受注する。
シーズンごとのコレクションは特に設けておらず、すべては Marie が見つけてくる素材による。オーダー制なので、サイズのカスタムも受け付けている。
参考記事: “This Frendh Mother-Dauther Duo Are Waging War with Fast Fashion” (CR Fashion Book)
急成長した Maison Cléo だけれど、スタートしたのはちょっとしたきっかけからだった。フランス国内の自然素材で、自分の思い描くトップが見つからなかったので、縫製ができる母に作ってもらい、それをインスタグラムに投稿していたのが始まりだそう。
そこからブランドを立ち上げ、有名インフルエンサーがたまたま彼女たちの服を着用したことから、瞬く間に人気ブランドになった。
ソーシャルメディア世代ならではのサクセスストーリーのようだが、悲劇も起きた。すぐにいわゆるファストファッションのカテゴリーに属する数々のブランドにコピーされたのだ。しかしながら、大手ビジネスに対して法的手段に出るのは、要する労力・時間・財政的理由から、断念せざるを得なかったそうだ。
コピー版はずっと劣悪な素材と透明性のない製造で、これは同ブランドが目指すファッションとは真逆である。それに対する Marie の憤りは、 CR Fashion Book とのインタビューで語られている。
小さな存在が挑戦しているサステナブルファッションと、そのうわべだけを模倣する無慈悲なビジネスについて、考えさせられる。
8. Small Lot Co.
https://smalllot-co.com/
バンクーバー(カナダ)& サンフランシスコ(アメリカ)
最後は、シューズやハットなどの小物ブランドである Small Lot Co. を紹介したい。
私がこのブランドを知ったきっかけでもあるメリージェーンタイプのシューズは、回収した使用済みコットン生地を繊維として紡ぎ直し生まれ変わらせた、100%再生コットンを使用。彼らのプロセスは有害化学物質を使わない上に水利用を抑え、一般的なテキスタイル製造よりずっと環境負荷が少ない。生産において余剰が出た場合は、地域の農場に寄付しコンポストしているそうだ。ちなみに染色もプラントベース素材を用い、ケミカルフリー。
製造は、安全と賃金が保証されたガテマラの工場で行われる。
参考記事: “Upcycled & Naturally Dyed” (Small Dot Co.)
小さい頃履いていたメリージェーンを思い起こさせる… 実は Small Lot Co. は子ども用も作っている。
ブランド名通りおそらくロット数は少なく、よくバックオーダーになっているのを目にする。涼しげなコットンのシューズ、来夏にでも手に入れたいな。
最後に
ここのところ、デッドストックや余剰生地、古着を活用するサステナブルファッションへの注目は集まっている。それにともない、残念なことに、このフィールドにおいても疑問が残る事例が生まれ始めている。
たとえば、デッドストックや余剰生地のしかるべき定義にそぐわないものにも、そのようにレーベルが貼られる現象が起きる。もしくは、規模が大きくなるに連れて、デッドストック利用で知られていたブランドのデッドストック比率が激減したにも関わらず、サステナブルブランドとしての名を馳せているケースもある。
小さいブランドのみが栄光を勝ち取るべきだ!とか、大きいブランドに生き残る術はない!とか、極端なことを言いたいわけではない。しかしながら、限られた条件下で闘う、今回取り上げたような決して大きくないブランドのたゆまない努力や、サステナビリティや消費主義と真摯に向き合う誠実さを、陰らせてしまうことは避けたい。私たち消費者も、今起きているファッション業界での動きの一部として、丁寧に向き合いたいものだ。
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