私 COOKIEHEAD は、クルエルティフリー(動物実験をしていない)化粧品に関して今までもさまざまな場所で執筆してきた。記事として書いた主なものはこちら。
【クルエルティフリーに関する記事】
– クルエルティフリーについて知ってもらいたい4つのこと (THE LITTLE WHIM)
– ヴィーガンコスメ情報も掲載!クルエルティフリーコスメのブランドリスト (THE LITTLE WHIM)
– ヴィーガンコスメとクルエルティフリーコスメの違い (THE LITTLE WHIM)
– クルエルティフリーかどうかわからない?じゃあ自分で聞いてみよう (THE LITTLE WHIM)
– let’s chat cruelty-free beauty(honeyhands) 日英バイリンガル
– 欧米で関心が高まるクルエルティフリーの化粧品。動物を守る新しい考え方とは? (IDEAS FOR GOOD)
– 用語集: クルエルティフリー (IDEAS FOR GOOD)
これに、実は大きなアップデートが必要になった。ある重大な化粧品規制が、2021年1月1日付けで変わることになったから。
私がこのニュースを知ったのは、2020年7月の Humane Society International の速報 “China Appears on Track to End Animal Testing for Imported ‘Ordinary’ Cosmetics” がきっかけ。動物実験の終わりが見えてきているのかな……一見嬉しい知らせのようで、小躍りしたくなる。しかし実際にじっくり調べてみると、悩んでしまう部分も感じた。
以前の記事に追記するには長過ぎる内容になりそうなので、新しく今回の新規制とそれにまつわることについて、まとめてみる。
【ご理解いただきたいこと】
– 私は化粧品業界の経験はなく、化粧品や化粧品化学及びそれに関わる法律における専門家でもありません。いち消費者かつフリーランスライターとして調べた内容です。
– ご自身でほかの情報も確認した上でご判断ください。
– 専門的知識をベースとした見解から、情報の誤りなどにお気づきでしたら、お手数をおかけしますがご連絡ください。
– 特定の国の規制に触れますが、その国自体やそれに属する人々との関連はありません。TLW はレイシズムやゼノフォビアに反対です。
1. 施行された新しい規制とは
今回施行されたのは、中国政府の薬事に関する機関である NMPA (National Medical Products Administration) の、化粧品に関する新しい規制 CSAR (Cosmetics Supervision and Administration Regulations) 。
どうして中国の規制の話をするのか…… 。ざっくり言うと、非中国系の化粧品会社・ブランドが中国市場で販売するには、たとえほかの国々では免除されていても、動物実験が長年義務化されてきたのだ(なじみがない方、もう少し詳しくお知りになりたい方は、こちら)。ゆえに、一部の例外(店頭販売をせずオンライン販売のみ、など)を除き、動物実験あり / なしの判断の大きな一つとして、中国市場で展開している=動物実験をしているという理解が共有されてきた。
誤解をされる方々が一定数いるように思うのだけれど、これは中国で展開する非中国系ブランドに関わることであって、中国のブランドであるかどうかや、中国製であるかどうかは、ここに直接は関係ない。むしろ、中国製の中国国内ブランドの多くは、動物実験が免除されている。
これを知った上で、CSAR のクルエルティフリーコスメ判断に関わる部分を読み解きたい。2020年夏に最初の草案が発表されて以来、全貌が少しずつ明らかになってきた。最終的な着地点に向けた細かい調整は、施行後のこれからもありそう。現時点 TLW の能力でアクセスかつ処理できる複数の化粧品ビジネスソースからの情報をもとに、今回の規制改正が動物実験に大きく関わると考える重要なポイントは以下の2つ。
1. 輸入される「一般的な」化粧品における動物実験の必須要求を排除
2. 「特別な」化粧品の動物実験の必須要求は続行
参考資料:
“Global Regulatory Updates of Animal Testing in 2020” (ChemLinked)
“Key Changes in China’s New Cosmetics Regulation (CSAR)” (Cosmetics Business)
“New China Regulations: Final CSAR Rules Revealed After Delays Caused by COVID-19” (Cosmetics Design Asia)
“China Animal Testing: Details on New Rules Expected to Drop within Next 6 months” (Cosmetics Design Asia)
※ 特に一つ目の “Global Regulatory Updates of Animal Testing in 2020“ は、2020年12月29日発行の無料でダウンロードできるレポートで、詳細がわかりやすくまとめられています。
この2つは一体、化粧品がクルエルティフリーかどうかを判断する上で、今後どう作用するのだろう?
2. 先に TLW の見解を言ってしまうと…
まずなにより、今回の新しい規制は大きく言えば緩和に当たり、クルエルティフリーコスメ関連においてかなり大きなマイルストーンだと思う。国際的に化粧品の動物実験撤廃の動きが強まっているにもかかわらず、中国政府の動物実験義務方針は、化粧品会社・ブランドが中国市場で販売する上で弊害になってきた。動物実験が継続する原因の大きな一つになってきた。なので、今回の緩和は間違いなく前進。
しかし、せっかくの明るい話題に水を差すのは決して本意ではないのだけれど、実際には飛び上がって喜ぶにはまだ早いかな、というのが個人的な印象。
むしろ現状ではまだまだ慎重になる必要を感じており、その結果、クルエルティフリーと判断できる対象が大幅に増えるものでは今のところないと考えている。
がっかりさせてしまったら、ごめんなさい…… では、どうしてこの見解に至ったのか?先ほどの2つの大事なポイント、それぞれを考えていきたい。
3-1. 「動物実験の要求の排除」は、「動物実験の排除」ではない
まずは、今回の新規制が何を言っているか、というかなめの部分。「輸入される『一般的な』化粧品における動物実験の必須要求を排除」って、どういうことなのかな。
繰り返しになるけれど、今までは、中国ではない国のブランドが中国市場で展開するにあたり、動物実験はごく一部の例外を除き必須だった。特に pre-market animal testing(市場展開前の動物実験)の義務により、外資化粧品ブランド(日本ブランドを含む)は、安全性を動物実験結果によって証明する書類を提出しないと中国市場での販売ができない仕組みだった。今回、この部分での動物実験の必須要求がなくなった、ということ。
しかしそれは、動物実験そのものの排除ではない。中国市場展開には引き続き安全性確認の証明する義務が課せられており(それはどこの国であってもだが)、その確認が動物実験以外の方法でも可、となったに過ぎない(つまり動物実験でも可、ということ)。
化粧品化学における安全性の確認は、想像するだけでもすごくややこしそう… 実際に、煩雑で時間もコストもかかるよう。そして、NMPA から代替として提案されている複数の方法や提出書類には、国際的基準に準ずる範囲(実質的緩和)と、場合によっては独自の基準が残る可能性(厳格になる潜在性)もある。
多くの化粧品ブランド、特に大手は、膨大な数の商品を展開している。それだけ、使用する原料も幅広い。ゆえに、新規制にともない動物実験以外の選択肢も与えられたけれど、実際にどれだけのブランドが代替案を精査し、受け入れ、既存のプロセス(つまりは動物実験)から変更し、中国市場でのスムースな販売チャネルを保っていくという手間をとるか、というところに注目しなくてはいけない。厳しい言い方をすると、倫理と利益効率が天秤にかけられる可能性がある。
新規制の施行は2021年1月1日付けとはいえ、実際に各ブランドが切り替えるには少なからずの時間、そしてコストと労力を要することを考慮すると、既存の中国販売ブランドの動物実験がなくなったと判断するには時期尚早だというのが TLW の考え。
3-2. 「特別な」化粧品というカテゴリーの判断は?
今回の CSAR は、実は動物実験だけでなく、化粧品全般に影響する。その一つに、化粧品のカテゴリーの再構想がある。「一般的」と「特別」という考え方で、化粧品そのものと配合成分に基づき分類がされたようだ。
それに基づいた「一般的な」化粧品の動物実験の必須要求は排除されるけれど、その対にあたる「『特別な』化粧品の動物実験の必須要求は続行」って、ざっくりしていてよくわかりにくい。
先述の参考資料から寄せ集めると、「特別な」化粧品に該当する中で動物実験対象になる可能性を含むのは、以下のもののよう。
- ヘアカラー
- パーマ剤
- 育毛剤
- フケ止め
- 日焼け止め
- 制汗剤
- 肌のブライトニング・ホワイトニング商品
- ニキビ用商品
- 子ども用・乳児用商品
- 新しい効果を謳う(今までに存在しない)成分
- 過去に基準に沿わなかった履歴のあるブランドの商品
これらを踏まえて、成分レベル、もしくは商品マーケティングレベルでどう判断すべきか考えると、明らかな分野もあれば、不明瞭でイマイチつかめないものもある。たとえば、プロダクトそのものは「化粧下地」(一般的)として販売されているけれど、「日焼け止め」成分(特別)が配合されている場合はどうなるの?ある「保湿クリーム」(一般的)に、主要効能ではない「ブライトニング」効果(特別)も小さく謳われていたらどうなるの?といった感じ…。そうゆう商品、いっぱいある気がする。
この基準は、(特にヴィーガンの消費者には)さらなる疑問を生む。「ヴィーガンコスメとクルエルティフリーコスメの違い」にも書いたけれど、一般的には、クルエルティフリー(動物実験をしていない)はブランドレベルで、ヴィーガン(動物由来成分を含まない)はプロダクトレベルで判断することができた。
しかし今後、動物実験あり / なしの基準が、ブランドとしてではなくプロダクトとしても関与してくるかもしれないと考えられる。たとえばこんなケースが出てくる —— 基本的には動物実験をしていないメイクアップブランドだけれど、商品展開の一部に、動物実験が求められる日焼け止め商品がある場合はどう考えるの?基本的には動物実験をしていないヘアケアブランドだけど、動物実験が求められる育毛効果を謳う商品も出している場合はどう考えるの?うーん、、、わからなくなる。ていうか、ややこし過ぎる。
ここの部分の考え方については、私の理解が足りないのかもしれないし、まだ普遍的な判断基準が確定していないのかもしれない。もう少し見えてこないとなんとも言えないと思うのだけれど、どちらにしろなんだか今以上に複雑になってしまう気がするなぁ……。
4. 確実に排除に向かっている動物実験のポリシーもある
一方で、もっと全面的に明るい兆しが見えていると感じられる部分もある。
先ほど出てきた pre-market animal testing(市場展開前の動物実験)にくわえ、中国政府は post-market animal testing(市場展開後の動物実験)というポリシーも持ってきた。これは、中国市場での販売開始後に、特に中国国内の消費者から「肌が荒れた」「目に染みた」などの意見が送られた際に発生する。その場合、政府関係者が独自に商品を入手して動物実験を含めた方法の中から安全性を確認する。これはたとえ pre-market animal testing による認可がおりていても、例外ではなかった。
この post-market animal testing は今後、「一般的」「特別」のカテゴリー関係なく廃止になる動きが濃厚なようだ。実際、post-market animal testing が行われた記録は近年ほぼないとも言われている。代わりに、もし安全性に疑いがある商品が発覚した場合は、市場から撤去し、リサーチと報告書の提出、罰金などのペナルティを課す方針になる流れが強まっている。
5. TLW は “better safe than sorry” の方針
というわけで…… 総じて大きな前進であるのは間違いないと思うのだけれど、確信を持てないところも多い。先走って間違った選択をするより、英語にある “better safe than sorry”(後悔するよりは慎重に…)のマインドセットで、今確実にクルエルティフリーだとわかっているものに現状は絞っておきたい、というのが TLW の強い気持ち。
そして既述のとおり、各ブランドが消費者が納得する形で正式発表する方針や、クルエルティフリー認定機関の更新を待つべきだと思っている。だって、もし現状は非クルエルティフリーのブランドが本当に自社製品から動物実験を完全撤廃したら、パブリックに大々的に知らせるはずだとも思うから。
「保存版!クルエルティフリーコスメ・ブランドリスト ヴィーガン情報あり 」は、TLW で歴代最も読まれている記事。今回の新規制で、リストに足せるブランドが激増するかな!?なんて嬉しい焦りを感じていたけれど、現時点で確認できる情報では、手を加えるのはしばらく先になりそう。
私の究極的な理想は、化粧品において「クルエルティフリー」という言葉や概念がそもそもなくなること。(特殊で不可欠と判断されるケースを除き)化粧品における動物実験は過去のものになって欲しい。そしてその動きは確実に起きている。
しかし、クルエルティフリーの判断は、実際にはイエスかノーかだけでなく、その間にいくつものはっきりしないものも次々生まれる。これは化粧品会社や業界だけに投げられた課題ではなく、各政府や規制に関わる、非常に複雑な問題。ゆえに、最終的な関係者であり、専門知識を持たない小さな存在である消費者(私自身を含む)には、まだまだ混乱や疑問も残る。動物を利用・搾取することなくお気に入りを見つけられるよう、クルエルティフリーコスメを求めている声を積極的にあげたり会話を増やしながら一緒に取り組んでいく仲間がいてくれたら、心から嬉しいです。