Top image: Collage made by COOKIEHEAD
Clockwise from top right: Axiology, LA VIE STELLA, Cupid & Psyche Beauty, and HAOMA
ここ1年ほど、コスメをほとんど買っていない。くわえて昨今の状況から、友人と一緒に出かけて、あれこれ手にとってあーだこーだおしゃべりしながらコスメを見て周る、という私の大好きなあそびもできなくなって長らく経つ。
インスタグラムなどで出会い、「これいいな」と保存するものだけが増えていっている気がする。
ここ最近気になっている、ヴィーガン & クルエルティフリーで、かつ、エシカルやサステナブルなアイデアをどこかユニークな形で実現しているブランドやプロダクトがいくつかある。そういったブランドのストーリーを通して、ビューティがかなえられる「よりよい世界」を考えるきっかけを得られる。
今日は、それらをめぐっていきます。・・・今はなかなかできない、「あれこれ手にとってあーだーこーだおしゃべりしながらコスメを見て周る」感覚を、バーチャルに再現するのもかねて。
HAOMA
植樹/植林イニシアティブのそもそも論を考える
実は、TLW は CBD やカナビス関連の PR 案件をよくいただく。正直何をいつどのように使えばいいのかわかっていないので、お受けするのもはばかれてしまう。
とはいえ、CBD に興味はある。仕事でずっと画面に向き合っているとカラダが凝り固まるので、CBD バームを使ってみたいな、と思っているところ。
探している中で目に留まったのが、HAOMA(ハオマ)。Rusty Wilenkin と Jason Osni によるこのブランドは、ユニセックス/ジェンダーレスで、スキンケアとセルフケアのプロダクトを扱う。ヴィーガン & クルエルティフリーで、遺伝子組み換えなし。パーム油を使用する際は RSPO の CSPO(認定)を受けているもの(これの是非は、意見が分かれるところ)。
HAOMA のサイトを見ていたら目に留まったこのフレーズ… “We plant a tree with every purchase“(ひと購入につき一本の木を植えます)。植樹や植林をしているブランドはどんどん増えている。しかし疑問が残るケースも多いので、じっくり見てみることに。
HAOMA は、サハラ以南のアフリカで、土地のリジェネレーション(再生)を目指す混農林業をベースとしたプログラム Trees for the Future (trees.org) と提携している。Trees for the Future は、対象地域の住民の飢餓と貧困を改善することをミッションとし、農家と協力し合いながら土地に合った植林をすることで土壌に炭素と栄養を呼び戻し、それを活用し野菜や果物、穀類などを植え、栽培する手助けをする。Trees for the Future の 2020年インパクトレポートでは、植林規模や詳細、現地の食糧安全保障の改善などが公開されている。
… なるほど。
コスメ界隈に限らず、最近いたるところで耳にする植樹や植林のキーワードは、森林破壊や二酸化炭素排出へのソリューションのように聞こえる。しかし、漠然としていて目的や目標が明示されていないものが多い。やり方よってはかえって害になり得る可能性も高い。たとえば、商業利用を目的とした単一栽培の短期的な植林で土壌を乱したり、土地に合わない種を植えることで地域の生態系を脅やかすことがある。どこにどれだけのどの種の植樹をし、その地域にどのように貢献しているのか、開示されているかはポイントだ。
参考記事: “Scientists Address Myths over Large-Scale Tree Planting” (BBC)
そもそもビジネス運営やプロダクトがちーっともサステナブルではないのに、ひたすら木を植えてるアピール(今ある森や自然環境を傷つけながら絆創膏を貼る行為)は、いかがなものか。一部の植樹イニシアティブの表面的なクレイムは、消費者が日々持っているエコギルトを緩和する、体裁のいい効果がある。本質がともなっていない植樹活動はグリーンウォッシングになる可能性をおおいに秘めていることも覚えておきたい。要は、「木を植えりゃいいってわけじゃない」を念頭に、じっくり見る必要があるということ。
とはいえ、これは私も知識がまだまだ未熟なエリア。Trees for the Future も、私が読む限りは一貫性があり好意的な印象を受けたけれど、なにごともそうであるように、いいところばかりではないとは思う。じっくり学んでいきたい(なにごとも疑ってかからなくてはいけないほどにいぶかしいことが溢れているのが、問題なんだけど…)。
HAOMA の話に戻ると、特筆すべきもう一つのポイントとして、リサイクルプログラムがしっかりしている点がある。容器がもし地域でリサイクルされないようであれば、シンプルな問い合わせで先払いの封筒を提供してくれて、TerraCycle に送り処理してもらうことができる(ハワイとアラスカを除くアメリカ国内のみ)。
さてさて、CBD バームの話。Temple Balm は、フルスペクトラム CBD(THC フリー)を75g配合。アメリカ国内でオーガニック栽培されたカナビス ステビアを使用している。メタル製の缶に施されたデザインが好きなのもあって、試してみたい!
Cupid & Psyche Beauty
「餅は餅屋」な小さいブランドをたしなむ
続いてはリップスティックのブランド、Cupid & Psyche(キューピッド・アンド・サイキ)。
ファッション・ビューティのフォトグラファーである Tracy Toler-Phillips が、長年業界の中にいることで培ってきた観察眼から、人々が惹かれるコスメを動物を利用・搾取することなく作り出そうとしたのが始まり。ホームページの Vision に書かれているメッセージが素敵。
“With Cupid & Psyche, you decide to live in a world where no one and no animal has to suffer in order for you to shine. “
「Cupid & Psyche を使うことで、あなたが輝くために人も動物も苦しむ必要のない世界で生きることを、決意する。」
“Vision” (Cupid & Psyche Beauty)
THE LITTLE WHIM 訳
ヴィーガン、クルエルティフリー(Leaping Bunny 認定)で、パーム油を不使用(原料はオーガニックではないよう… )。アメリカ国内で手作業で製造されているそう。パッケージは再生紙を利用した紙製。
リップスティックしか作っていない小さいブランドだけれど、クリエイティブなバックグラウンドを持つ人物が、リップスティックにフォーカスしてるからこそ、小さいブランドとして作り上げられる部分があるとも感じる。餅は餅屋といった感じの、特化しているからこそ、そのブランドで完結できる最大の形と魅力がある。
現在発売されているリップスティックの展開は11色で、とてもリッチな色合い。最近リップメイクはおざなりになりがちだけれど、次なにかを購入する際はぜひ使ってみたいな。
Axiology
天然マイカの背景とそのジレンマに向き合う
もう一つ、リップアイテムが豊富なブランド Axiology(アキシオロジー)。
ファウンダーの Ericka Rodriguez が掲げるのは、動物と地球を傷めつけないビューティを目指すこと。ヴィーガン & クルエルティフリー(PETA 認定)で、パーム油不使用。原料の70%はオーガニックで、ブランド当初からあるブレットタイプの Lipstick は、10の原料からできているシンプルなフォーミュラ。
そして注目したいのは、天然マイカ(雲母)という天然鉱物における Axiology の立ち位置。天然マイカは、アイシャドウなどのキラキラ、または「ミネラルメイクアップ」と呼ばれる部類ではファンデーションをはじめ広く使われる。化粧品だけでなく、車や家電などの塗料にも配合されている。
細く暗い穴に入って採掘される天然マイカは、子どもの小さいカラダが向いていることから、児童労働搾取が横行している。サプライチェーンのトレーサビリティの欠如も、大きな課題となっている。天然マイカが豊富な東インドが直面している “resource curse”(資源の呪い)について詳しくは、以前 IDEAS FOR GOOD で執筆した「児童労働搾取が懸念される天然マイカを使わない。アメリカ発コスメブランド「Aether Beauty」の挑戦」にて。
鉱物である天然マイカはヴィーガンであり、成分自体も決して有害ではない。掘り過ぎたり周りの環境を汚染することを防ぎながら、安全な労働環境かつ適正な賃金を維持し、公正な取引を確立することで、採掘地域の経済は繁栄する。外部協力として、大手企業が賛同し現地労働環境の改善および児童への教育支援をすすめる RMI (Responsible Mica Initiative) は、2016年から存在する。・・・しかし、楽観するにはまだまだ時期尚早なようだ。特に2020年のパンデミック発生以降、この希少な天然資源を収入源とする現地民たちの状況は、さらに厳しくなっているかもしれない。
参考記事: Pandemic Drives More People to Risk Lives in India’s Illegal Mica Mines (Reuters)
これらを踏まえた上で、Axiology は、児童労働不関与の認定を受けている天然マイカを使用しており、その改善にも尽力している。
トレーサビリティの不完全から天然マイカを使用せず人工マイカを選ぶブランドもあるし、Axiology のように児童労働に関与していないと認定を受けている天然マイカ(100%確実な保証はないかもしれない)を選択するケースもある。闇を持つこの鉱物をボイコットするか、それともできる最善の形でサポートするか。現状からの脱却を考えた際、どちらが最適なのか… これは判断が非常にむずかしい。しかしそもそも業界の大部分は、この問題を論じてすらいないことを考えると、少なくともアクションを起こしそれを積極的に明示しているブランドが存在することで、啓蒙が広がる。
Axiology で気になるものは… Balmies。リップだけでなくチークやアイにも使えるマルチタスクアイテムで、小さなクレヨンのよう。パッケージは超ミニマル。マルチタスクなものは、どれにおいても取るに足らずになってしまう可能性はあるし、でも多用途において気に入れば無駄が省け、使い切りやすく、すごく理にかなう。レビューはすごくいいみたい。
なんでヴィーガンコスメ?Axiology による下の投稿は、ヴィーガンの原料のいくつかについて、そうではないものと比較して簡潔におしえてくれる上に、天然マイカの認定にも触れている。
ラヴィステラ
貴重な日本発ヴィーガンコスメを応援する
これまでに登場したのはすべてアメリカのブランドだったけれど、最後は日本から。ラヴィステラ (LA VIE STELLA) はかねてからとても気になっていて、私が日本に住んでいたらきっと買っていたなぁ!と思うもの。
ヴィーガンである野田さとみさんが2019年に立ち上げたこのブランドは、ヴィーガン、クルエルティフリー、パーム油不使用、そして使用する植物やハーブの素材はオーガニックのものを中心に厳選している。
まだまだ小さく、スタートアップと呼べるラヴィステラだけれど、パッケージの素材はガラスや再生可能なものを使用したり、動物保護施設への寄付にも積極的だったりと、今までの当たり前をこわしていっている。
私がこのブランドを知ったきっかけは、日焼け止めであるボタニカルヴィーガンUVケアクリーム。珊瑚礁を傷つけ海洋生態系を乱すと言われている紫外線吸収剤(ケミカルサンスクリーン)原料を使用しない、リーフセーフ仕様。
リーフセーフでプラスチックフリー容器の固形日焼け止めはアメリカにもあるのだけれど、ビーズワックス(ミツロウ)が配合されているヴィーガンではないフォーミュラが多い。ラヴィステラのものはその代わりにキャンディリラワックスを使用しておりヴィーガンなので、私が気にかけたいポイントすべてにチェックマークを入れることができる。
日本ではまだまだヴィーガンやクルエルティフリーの認識において伸びしろの方が圧倒的に大きく、くわえてパーム油不使用やリーフセーフとなると国内で探すのは困難だろう。ラヴィステラは貴重な存在だ。
野田さんは、コスメ作りにおいて、オーガニックの植物やハーブの力を生かすことも重視している。それは人の肌に優しいだけでなく、自然環境と動物のことも考えた上でのこと。実は私は、野田さんには IDEAS FOR GOOD でインタビューをさせていただき、ラヴィステラの挑戦についてじっくり聞く機会があった。タイミングがばらばらになってしまったけれど、記事は近日中に公開される予定なので、その際にはお知らせします!
どう妥協し、その妥協とどう向き合うか
私にとって、コスメや身の回りのものを選ぶ上でヴィーガン & クルエルティフリーは大前提だけれど、それ以外にも気にかけたいことはたくさんある。
意識を強めるほど、目の前から欲しいものがどんどん消えていく。それにより、必要なものや本当に欲しいと思うものだけ手に入れるようになった。とはいえ、どこかで妥協しないと、候補はひとつもなくなってしまう・・・!
その中で、どう見極めるか。私は、情報を集めきれない場合は問い合わせをし、それに返ってくる対応は重視している。箇条書きで簡潔に質問を送っているのに、3行くらいの文章で、すべてに答えているようでどの質問の回答にもなっていないような返事がくるとがっかり。逆に、一つひとつに順を追って答えてくれて、その上私が質問している意図まで汲みとり追加的情報も提供してくれたら、信頼が生まれる。
もし現実達成できていない項目があっても、それを認識し、解決にどう取り組んでいるかをシェアしてくれるブランドも、今後に期待したくなる。
もし問い合わせをするまでにいかなくても、ウェブサイトの情報の濃さと、FAQ(よくある質問)コーナーの質問・回答の例が多様だと、そこから誠実さを感じる。支払い、配送や返品に関する項目ばかりではなく、ブランド理念、プロダクトや原料の詳細、サプライチェーンなどについて、顧客が抱くであろう疑問に最初から答えを提示してくれていると、オープンな関係性が生まれる。
「いいね!」と思うワクワクと、「んーー、まぁ仕方ないか」という妥協のバランスがとれた上で購入した際も、それをブランドに伝えるのは大事なコミュニケーションになることがある。「A、B と C のポイントが気に入って買いました。D に関しては、今後 xxx や yyy といった形に変えていただけると嬉しいです!」と、ワクワクと妥協を素直にシェアする。
私は実際に、そういった連絡をした直後に「ご意見ありがとうございます。改善に努めます。」と返信をもらい、そのまた約1年後に、「D についてアップデートがあります。xxx に変更しました。」と、お知らせがきたことがある。しっかり記録してくれていて、そして素敵なニュースを届けてくれるって、嬉しい。
ものむずかしい消費者になると、ストレスは増えるかもしれない。しかしその分、自らが利用するものや欲しいものを通して、目には見えないどこかの誰か/なにかと自分とのつながりが、浮かび上がってくる。そこから気づきを得たり、もっと調べるきっかけになることがたくさんある。
たかがコスメ、されどコスメ。あれこれ手にとってあーだーこーだおしゃべりしながら見て周るのは、とても価値あるプロセスでもあるのだ。
THE LITTLE WHIM は化粧品の動物実験と動物由来成分使用に反対しています。取り上げる化粧品は2018年9月以降クルエルティフリー(動物実験をしていない)、くわえて2019年8月以降ヴィーガン(動物由来成分不使用)に限定しています。