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食品ロス救済アプリでベーグルを買い、考えたこと

かつてユダヤ系移民がポーランドから持ち込んだと言われている、ニューヨークのベーグル(※1)。クリームチーズ(※2)をたっぷり塗ってコーヒーとともにいただくのは、この街を象徴する朝食メニューにまで育った。

※1: 基本的にはベーグルは植物性の原料でできている。ただしレシピによっては、卵入りの生地や茹でる際にハチミツを使用するケースもあるので、注意は必要。
※2: ニューヨークでは、プラントベースのクリームチーズは一般的になっており、スーパーマーケットでもベーグル屋さんでも植物性オプションが見つかりやすい。

ブルックリンに住む我が家には、行きつけのベーグル屋さんがある。とびきりに美味しいとか有名とかではないけれど、自宅から歩いて5分と近く、お店でいちから作る焼き立てが毎朝並ぶ。

しかし、いつもフレッシュなベーグルが手に入るのには、事情もある。破棄が毎日のように生まれているのだ。食品ロス削減を目指し破棄食品の救済をするアプリ、 Too Good to Go をダウンロードしてみたら、なじみのベーグル屋さんもエリア内で参画しているビジネスとして出てきた。そっか、そうだよね… となる。

食品ロスを思い、先日このアプリを通して、廃棄になる余剰ベーグルを買ってみた。そしてそこから、自分が気になっている社会のあれこれと、食品ロス救済の関係性を、考えてみた。

Too Good to Go とは

日本語で「捨てるにはもったいなさ過ぎる」を意味する名のこのアプリは、地域のレストラン・カフェ・ベーカリーなどの飲食店と住民をつなぎ、通常であれば廃棄となる食品を割安で取引することを可能にするBコーポレーション認定を受けている企業だ。

Too Good to Go
https://toogoodtogo.org/

さらに彼らは、食品ロス問題には、以下の4つの異なる観点からそれぞれ取り組み協力し合う必要があるという考え方も明示している。

“Our mission is to inspire and empower everyone to take action against food waste. We know that to live and breathe this every day, we need to turn our words into actions. With this in mind we have set out a new ambition – to contribute in every way we can to building the global food waste movement. It’s only when we all come together to fight food waste, that we’ll be able to generate a positive change in society.”

「私たちの使命は、食品ロスに対抗できるよう、すべての人びとにインスピレーションと活力を与えること。これに熱意をもって取り組み実現するためには、自分たちの言葉を行動にうつす必要がある。このことを念頭に置いて、我々がグローバルな食品ロス解決ムーブメントを形にするいかなる手段にも貢献すべく、新たな野望を掲げた – 私たちが一丸となって食品廃棄と闘ってこそ、社会にポジティブな変化をもたらすことができる。」

Our Ambition” (Too Good to Go)
THE LITTLE WHIM 訳

2016年にオランダで生まれたこのアプリは、今ではヨーロッパを中心に15カ国で利用されている。アメリカにやってきたのは2020年9月で、現在は私が住むニューヨークシティ(ニューヨーク市)のみでの運用。今後アメリカ全体でのローンチを目論んでいるそう。

アメリカでは、食料供給の内30-40%が廃棄になると報告されている。そしてニューヨークシティの場合、ロスになった食品は廃棄物全体の20%を占める。これの大部分は埋め立てに送られ、二酸化炭素より強い温室効果を持つメタンガスの発生につながる。

一方で、ニューヨークシティでは、110万人が安定した安全な食へのアクセスがないと言われている。これは市人口全体の12.9%に当たり、アメリカ全体の比率に比べ深刻だそうだ。

参考資料:
Working to Solve New York’s Food Waste Problem” (NYLCV)
Research, Reports, and Financials (2020)” (Food Bank for New York City)

つまり、私の住む街では、まだまだ食べられる食品が余剰として廃棄されまくっていて、一方で食べることに困っている人たちがたくさんいる。何度も聞いたことがあった話とはいえ、自分の地域のことを考えると、重ねがさねショッキングである。

それで私はひとまず、先ほどの4つの柱の一つである「家庭・個人」として、そのままでは廃棄になっていたベーグルをアプリを通して買うことにしたのだ。

12個のベーグル

行きつけのベーグル屋さんは、朝6時半にオープンし、夕方6時に閉まる。日中に廃棄ベーグル購入券が発売されるので、利用者はそれを購入し、閉店前の5時から6時の間に受け取りに行く。

普段はベーグル1つ$1.50だ。廃棄ベーグル購入券は$4。フレイバーの指定はできない、おまかせ式。初めて利用したので、数についてもよくわかっていなかった。

時間になりピックアップに行くと、想像していたより大きな紙袋が待ち受けていた。ずしりとした重みを感じながら抱えて持ち帰る。

too good to go bagels

いつもはすぐに食べる分だけ買うので、こんなにまとまった数のベーグルが家にやってきたことはない。とりあえず袋から出して数えてみると、12個入っていた。家計をやりくりする私は計算してみた。

too good to go bagels notes

次の日の朝に食べる分だけ残して、10個は冷凍した。しばらくベーグルの朝食が続きそうだ。このベーグル屋さんはヴィーガンサンドウィッチのメニューも豊富なので、今度は格安ベーグルではなくそれを買いに行こう、とも思った。

翌朝、いつも通り、軽くトーストして食べた。夫と、「捨てられちゃうベーグルがこうやって食べられることになって、よかったね」「それにしても本当に、お値打ちだったね」ともふもふ言いながら。いつも通り、美味しかった。

食品ロス救済とお買い得

78%という値引きは、一般的なセールではなかなか経験することがない。

似たような食品ロス救済として身近なものに、スーパーマーケットなどで見る「見切り品値引き」「クリアランス」といったものがある。賞味期限が迫っている商品や、少ししなびたり色が変わった野菜や果物が、格安で手に入る。COVID-19 の影響で行き場を失った農作物を抱える農家から直接購入するサービスも、日本で多いと聞く。

そして、Too Good to Go のように、地域内で飲食店と利用者をつなぐ食品ロス救済型アプリはほかにも存在する。その中で、ニューヨークのフード系メディアである Eater New York は、Too Good to Go と契約するビジネスに話を聞いた記事で、持ち帰り袋の内容は客のリクエストではなくお店のおまかせで選べることと、デリバリーではなくピックアップ制であることが、 このサービスの特徴であると書いている。

これにより参加ビジネス側は、大幅な値引きからもうけは(ほとんど)期待できないとはいえ、運営上の負担が少ない。食品ロスを減らすことに真に集中し、その先にあるミッション達成に直結しやすいのかもしれない。

利用者にとっても、食品アレルギー・宗教上の理由・倫理などから口にするものに制限がある場合は特に注意が必要だが、「お楽しみ袋」をお得に手に入れることは、昨今の自宅時間が増えている状況の中、エキサイティングな体験におおいになり得る。

しかしこういった食品ロス救済は、あくまでお買い得の約束があることで成り立っている。「利益はない(少ない)けれど、捨てるよりは・・・」と「捨てられるものが、安いから・・・」が出会う形なのだ。

「古いから安い」

1年と少し前、私はインスタグラムでこんな投稿をしたことを思い出した。

ブルックリンはクリントン・ヒルにある小さなヴィーガンベーカーリーが、前日の焼き菓子を値引きして売っているのを見た時のものだ。「その日焼いたものよりは1日古い」ことを明らかにしている正直さは好きだ。

しかし、たった1日でも時間が過ぎると価値(値段)が下がる概念が普遍的であることも、感じた。これは消費者が抱く感覚であるし、一方でビジネス側がフレッシュさやスピードを売りにすればするほど、強くなるものでもある。

それぞれの努力と、関係性

先ほどの、Too Good to Go が「一丸となる」ことを強調した上で提示する4つの柱を考えてみる。<家庭・個人><ビジネス><教育><公共・政治>。それぞれの項目を見てみるのは、私のような一般生活者で視野も行動も限られている存在でも、全体像をとらえる上でなにかのカギになる

家庭・個人

Households (Too Good to Go)

個々が持つ影響力は小さいが、個体数ではもっとも多い。

できることとしては、計画性を持ち創造性を生かして食と向き合い、見た目で食べ物を選別せず、長持ちする保存方法をとり、無駄なく食べることなどがあげられている。Too Good to Go だけでなく、以前紹介した Misfits Market のような不揃いで市場に出なかったオーガニック野菜を購入することもできる。

私の場合は、地域で食品ゴミ回収を利用しコンポストしてもらっていることにより、食材との向き合い方を考え直した。この営みを通して一週間分の生ゴミを溜めて可視化したことで、食べられるものはとことん食べるようになり無駄ががくんと減った。

地域のプログラムを利用することによって、自分の家の中のことだけではなく、その周りの小さな輪の中のことにも目を向けるきっかけになった。個人の影響力に限りはあるけれど、小さいなりに擁する力を最大限にすることと、手応えを持つことに努めている

ビジネス

Businesses (Too Good to Go)

レストラン、ベーカリー、スーパーマーケット、そしてホテルと、それぞれ形態に分けて具体的に書かれている。

たとえば、過剰な製造やバッフェのやり方、大き過ぎる食事ポーション、非効率的な需要予測、パッケージサイズの不適正など、経営面から見直すことができるポイントはいくつもある

私は飲食や食品業界の知識も経験もない。ただし、利用者として地域ビジネスと直接的な関係性は持つ。Too Good to Go のようなアプリは、ビジネスと家庭・個人が協力し合う、今まさに起きている現状の回避のためには、有効的だと思う。

ただ、食品ロスの問題と並列して冒頭にて述べた、市人口全体の12.9%にのぼる安定した安全な食へのアクセスがない人々のことを考えると、そういった状況にいない私が、飲食店から「お買い得」の恩恵を受けていることに、悩んでもしまう。

パンデミックが発生してからというもの、ニューヨークの街中には community fridge(みんなの冷蔵庫)が増えている。地域の市民やビジネスなどが持ち寄ったり寄付した食料を保管し、誰でも自由に持って帰ることができる。

さらに先週、マンハッタンにプラントベースの community fridge を設置した団体があり、胸アツだった。「食べものへのアクセスが限られるニューヨーク市民の食の安全保障のために、動物を抑圧することはない」を具現化してくれた。私もぜひ、ここに食料を寄付しようと計画している。

近隣の community fridge を探すウェブサイトも存在する。

このムーブメントは、参画することが可能な人や団体の、(いわゆる)善意によって成り立つもの(品質や安全の管理などについて課題がないとは言えない)。

余剰が出て廃棄送りになる食品をかかえている飲食ビジネスが、格安で地域住民に販売するか、それとも community fridge やその他シェルター等に寄付するかは、それぞれの判断だ。ニューヨークシティの飲食は、感染拡大防止のために今も多くの制限がある。寄付ではなく、少しのもうけのためにでも地域ビジネスが余剰を販売をすることを、「善意がない」と判断する状況にはないとも思っている。

一方、先日アメリカ最大のドーナツチェーンである Dunkin’ Donuts の従業員が、一日の終わりに破棄される大量のドーナツを TikTok で公表し、クビになったことが話題になった。

@bryanjohnston_

every night … 312 donuts + munchkins 😢@dunkin

♬ In This House – Marcus Vinicius Alfaro Nascimento

Dunkiin’ Donuts は、アメリカ全土に広がるフランチャイズ経営である。記事によると、店舗の余剰ドーナツを地域コミュニティに寄付するか破棄するかどうかは、経営判断をする各店舗責任者に任されているそうだ。大企業だからこそ絶大な効果として発揮できる、余剰を減らす上にどうしても出てしまった場合の対応のストリームライン化はあるのではないか?と感じた。

教育

Schools (Too Good to Go)

教育も、食について考える上で欠かせない要素だ。Too Good to Go のサイトでは、学生の年齢層別に資料をいくつも提供している。

たとえば「バナナが自分たちの手元にくるまで」など食品サプライチェーンについて考えたり、地域の食品ロス問題についてや、食品ロスを削減するイノベーションやビジネスのあり方についてなど、内容は幅広い。

さらには、国連の FAO (Food and Agriculture Organization) などの機関とも提携し、食品ロスに関する啓蒙に努めている。

公共・政治

Public Affairs (Too Good to Go)

最後は、システムチェンジを真に起こす上で欠かせない要素。おそらくもっとも重要なのに、もっとも時間がかかってしまう部分。

Too Good to Go のサイトは、ヨーロッパ、アジア・オセアニア、北米、それぞれの地区での食品ロスに関連する政策や取り組みについて解説している。

たとえばこのアプリの起点であるヨーロッパでは、食品ロス問題はサーキュラー・エコノミーの一環として多くの政策が発表されている。

アメリカの例としてあげられているテキサス州オースティンは、2040年までにゼロウェイスト都市になることを掲げている。私は2020年の2月にオースティンを訪れた際に、飲食店で出る食品廃棄物の堆肥化は義務付けられていることに気づいた。利用者にも、食べ残しを持ち帰らない場合は、堆肥用ゴミをしっかり分別することが求められていた。

さらには、ついこないだニュージャージー州上院議員の Cory Booker が、上院農業委員会のメンバーに選ばれたニュースを目にした。

実は Booker はヴィーガンであり、(公表している)ヴィーガンがこの委員に選ばれるのは初めてのこと。彼は CAFOs (concentrated animal feeding operations、集約的工場式畜産) 撲滅を目指す法案など、アメリカのフードシステムの変革に意欲的だ。彼の方針は、2020年大統領選の民主党候補者であった Bernie Sanders や Elizabeth Warren にも後押しされている。

参考資料: “‘A savagely Broken Food system’: Cory Booker Wants Radical Reform … Now” (The Guardian)

食品産業の構造改革を率いる政治家の働きは、食品ロス削減にも大きく関係する。私たち一般生活者の目には見えにくい、市場に出るまでの間に出る余剰や廃棄への働きかけとして、とても大きなパワーを持つ

最後に

サステナビリティやよりよい社会について考えると、毎度のことのように、自分にできることとは?・・でもそれってむしろ意味あるの?という気持ちになる。

食品ロス救済の一つの手近な手段として、廃棄になるかもしれなかった12個のベーグルを78%オフで買ったことは、私にあいかわらずもやもやをもたらした。

しかしそこから、気になっていた情報や事象の点と点をつなげる手助けもしてくれた。ヴィーガニズムや社会的不均衡といった目線からも、食品ロス救済の意義を考えることができる。

今自分にできることや見えていることを、過小評価しないこと。同時に、それを過大評価もしないこと。じっくりと実直に、今と未来を見つめることの大切さをあらためて感じた。

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